これはかなりレベルの高い活動です。筆者もこれまでに何度かやったことがありますが、ずっと続けてきたわけではなく、ときどき思い立ったときにやっている程度のものです。「そんなことを紹介するのか?」と言われそうですが、自分が続けていなくても良い方法であれば紹介することに意味はあると思っています。
この活動の最も重要な目的は、英語で英語を学ぶ習慣をつけるということです。英語を外国語として学んでいる私達日本人は、英語を学習するときにどうしても母語である日本語の助けを借りてしまいます。例えば、ある英語の表現を耳にしたときに、それを日本語に訳して理解しようとします。しかし、いつも日本語を使って理解していると、日本語で理解できたということをその英語を理解できたこたと勘違いしてしまい、結局は対象の表現が印象深く残らないということになってしまうのです。
そうならないように、そしてまるで自分が英語を話す国にいるかのような感覚を自分で作り出すためにもこの方法はお勧めです。
具体的な練習方法としては、頭に思い浮かんだすべてのことを英語にするということになります。きちんとした思考内容はもちろんのこと、ちょっとした気持ちを表すことばも英語にしてみるわけです。例えば、「腹がへった」と思ったら "I'm hungry." とつぶやき、「なんだあれ?」と思ったら、"What's that?" と頭の中で言ってみます。
大切なのは、まず自分で言えそうなことから始めることです。いきなり難しいことを言おうとして言えないとそこでやめてしまう可能性があるからです。でも、いつもそれだけでは進歩をあまり感じられませんから、慣れてきたら少し難しそうな表現にチャレンジしてみます。自分でつぶやいているだけだとはたしてそれが正しい表現なのかどうかわからないという心配もあるかもしれません。でも、そんなことを気にするあまりにやらないよりは、やってみて続けることの方がずっと大事です。
筆者がこの練習方法のことを始めて知ったのは大学1年生のときでした。当時、大学の先生方から「歴代の英語科の学生の中で一番の秀才」と呼ばれ、後に筆者がアメリカへ留学する(「留学すること」のコーナー参照)きっかけを作ってくださった3年生のM先輩に教えてもらったのです。
ある日、気楽な気持ちでM先輩に留学を目指すための勉強法を尋ねたところ、「普段から英語で考えるくせをつけること。自分の生活のすべてを英語にすること」という話をしてくれました。そして、「日本語を使って勉強しているうちは真の英語力はつかない」とも言われました。その当時、筆者はまだ留学をしようなどとは思っておらず、それほど英語をしっかり勉強しようとは思っていなかったこともあって、M先輩のことばは大変衝撃的でした。
もちろん、M先輩はすでにその方法で力を付けており、まもなく(3年生の夏から)文部省海外派遣学生としてイギリスのレディング大学(University of Reading)に留学されました。後にM先輩と同期の先輩から聞いたところでは、「Mの家に遊びに行ったら、彼の部屋の壁には『英語で考えろ!』『英和辞典は使うな!』などの貼り紙がいっぱいあった」ということでした。
なお、そのM先輩は大学在学中に白血病にかかっていることがわかり、卒業して数年後に残念ながらお亡くなりになりました。あまりの秀才のために命を使い果たされたのか、ご自身の残された時間を精一杯使うためにできうることをすべてやろうとなされたからあのような秀才になられたのか…。筆者自身が先輩の教えを忠実に実行できなかったことを大変申し訳なく思っているので、その分も含めてここに紹介させてもらいました。