② 教科書の音読をしっかり行う

(授業中の音読練習)

(クラスで行う音読発表会)

(学芸発表会での音読発表会)


音読がいかに大切であるかは、すでに「学習法に関すること」「3. 音読は「話すこと」の基礎を支える大切な活動である」でも述べていますが、ここで改めて音読の効果と具体的な音読の練習方法について述べることにします。読者の方が中・高生で、学校の授業で音読をあまり行っていないという場合は、ぜひこの記事を読んで自分で実行してみてください。

 

1. 音読の効果

筆者の学校ではごく当たり前のようにほぼ毎時間やっている音読ですが、中学校や高校によってはほとんど音読をしない学校もあります。両者のちがいは中学校で授業をしているだけだと気がつきませんが、筆者のように高校や大学で授業をした経験がある者からすると、それまでにどの程度授業で音読をしてきたかのちがいが如実に表れることがわかっています。具体的には発音の良し悪しと表現力の有る無しに表れます。

 

① 発音に関して

高校生の場合、授業で教科書の音読をさせてあまり発音の良くない生徒に聞いてみると、その多くが中学校時代にあまり(中には「まったく」)音読をしてこなかったという生徒と重なります。大学生の場合は、そのような学生は中学校または中学校と高校両方で音読をしてこなかった生徒と重なります(中学校でしっかりやった生徒は高校でやっていなくても大丈夫)。大学生くらいになってからですと、発音の“矯正”にはかなりの労力がいります。

 

② 表現力に関して

こちらも高校生や大学生にスピーチなどの活動をさせてみるとよくわかります。スピーチをただ単に原稿を覚えただけのフラットな音調で話す人と中学校・高校での音読経験の少ない人が重なります。一方、スピーチを仲間に話しかけるようにできる人は、中学校・高校で音読をしっかりやってきた人に多いことがわかっています。スピーチで話し方の指導をしなくても、自然に自分で場面に合った話し方をしようと考え実行できる力を音読から学んだのでしょう。

 

以上の現象からわかることは、読者の方が中学生や高校生であれば、音読をしっかりするかどうかでその後の「話すこと」に対する自信が変わってくることになります。もちろん、読者の方がそれ以上の年齢の方でも遅すぎることはありません。一からもう一度やり直すつもりで中学校や高校で使った教科書(ない人は現行の教科書)を音読することは、みなさんの英語力アップに必ず大きな影響を与えると思います。

 

2. 音読の仕方

ここでは音読の具体的な方法をご説明します。すでにご自身の過去の経験として知っている方法もあれば、「そんなやり方があるんだあ…」と思われる方法もあると思います。

 

(1) 音読の前活動

音読で大切なことは、まずモデルとなる音声を聞くことです。これをせずに自己流の音声感覚で読んでも、あまり良い音読にはなりません。モデルとなる音声は、以前であればカセットテープ(古い!)やCDで聞くことができました。お手元にそれがある場合はぜひ利用してください。それらがない人は、ぜひとも現行(令和3年度発行)の教科書(会社はどこでも結構です)の利用をお勧めします。なぜかと言うと、現行版から教科書にはQRコードが付いていて、スマホをかざすとその箇所のモデル音声を聞くことができるようになっているからです。筆者の学校でも令和3年度から生徒に教科書CDの購入をさせずにQRコードを使って自宅で音読練習をさせています。

 

(2) 音読の留意点

さて、音読をする際に注意してもらいたいことが何点かあります。それは、ただ漫然とモデル音声を聞いて読むだけでは音読を上達させるポイントがわからないからです。

 

① 個々の音と単語の発音をよく聞いて真似して読む

最近の教科書は、アルファベットの「名前」(エイ、ビー、スィー…)だけでなく、「音」(ア、ブ、ク…)も載っているものが多くなりました。英語の発音に自信がない人は、ぜひここから始めてください。個々の音が正しく認識できて自分で発音できるようになって始めて単語を正しく発音できます。

 

② 単語と単語の間の音のつながりをよく聞いて真似して読む

個々の単語の発音が上手になっても、それを単に連続して発音しているだけでは音読は上手になりません。例えば、Sit down.であれば、モデルは「スィッダウン」と言っているはずです。sit の t の音が次に来る down の d の音を出すために落ちてしまっているのです。そういう音のつながりに耳を澄ませてみてください。そしてそれを真似て音読するようにします。

 

③ イントネーションやリズム、場面に合った抑揚などをよく聞いて真似して読む

教科書本文が会話の場合、場面や話し手の意向が十分に伝わるように録音されています。教科書のモデル音声は、録音時にこの点をかなり厳しく意識して作られています(大抵は音声学の専門家が録音監督をしています)。特に、イントネーションやリズム、場面に合った抑揚などが学習者にわかりやすいように録音されています。自分が教科書の登場人物になったつもりでその場面を再現できるように読めるようになれば、実際の会話場面でもそのように話せるようになりますから、ぜひこれらの点にしっかりと耳を傾けてください。そして、例え登場人物が何人いようと、それぞれの立場を意識して読み分けるくらいのつもりで練習しましょう。

 

④ チャンクを意識して聞いて真似して読む

「チャンク」とは、この場合は「意味のまとまり」のことです。例えば、I went to the library to read books. であれば、I went to the library / to read books. と2つに区切って読みます。この区切り箇所をしっかり意識して読んでいるかいなかで音読が上手かどうかがわかります。それは、意味のまとまりごとに一気に読めない人は、その文の正しい意味がわかっていないということを表すからです。ですから、ぜひこの点を意識して聞いて、そのとおりに読んでみてください。この点についてしっかりと注意して音読したい人は、あらかじめ教科書の該当箇所に「/」(スラッシュ)を入れておくのもいいと思います。

 

(2) 音読の方法

単に「音読」と言ってもいろいろな方法があります。みなさんが知っている最もポピュラーな方法は、モデル音声の後について1文ずつリピートする方法でしょう。それも含めていろいろな音読の方法を紹介しますので、いろいろな方法を試してみてください。なお、以下の方法は「学習法に関すること」の「3. 音読は「話すこと」の基礎を支える大切な活動である」に示したものの再掲です。

 

① リピート(repetition)

モデル音声の後について、テキストを見ながら一文ずつ読む練習をするものです。最もポピュラーな活動で、多くの人がやったことがあると思います。モデルの個々の発音、単語間の音の変化、抑揚、登場人物の気持ち等をよく聞き取り、それをすべて真似るように読みます。

 

② オーバーラッピング(overwrapping)

モデル音声に合わせて、テキストを見ながら読む練習をするものです。ネイティブのリズムやスピードに慣れる方法として効果があります。いきりなりやるのは難しいので、まずは何度かモデルを聞いて、発音、リズム、スピードをつかむようにします。読み始めると自分の声でモデル音声が聞こえづらくなるので、モデル音声を少し大きめの音量にする必要があります。

 

③ シャドーイング(shadowing)

モデル音声を後から追いかけるように、テキストを見ずに読む練習をするものです。自分が言っている間もどんどんモデル音声が進んでいきますので、両方に気を配らなければなりません。音読練習の中では最もレベルの高い活動と言われており、独学で英語マスターになった人の多くがこの方法で練習したと言います。

 

④ 個別(individual)

モデル音声に合わせることなく、自分のペースで読む練習をするものです。ある程度モデルを聞いて、独力で読めるようになってから行います。音読の最終段階として行うものです。途中で止めたり、言い直したりできるので、できるようになるまで何度も練習できます。重要なのは、自分のペースであるからとボソボソ言うのではなく、その時点で自分ができる最高レベルの音読を目指すことです。

 

以上が英語学習者の間でよく行われている音読の方法です。いつも同じ方法でやっていると飽きてしまうこともあるので、いろいろ試してみてください。

 

3. 教科書以外の音読教材

今回は教科書を使って音読を練習することを中心にお話ししましたが、音読の対象となる教材は教科書以外のものでも結構です。例えば…

 

・本や絵本

・新聞や雑誌の記事

・歌の歌詞

・映画のシナリオ

 

などがあります。その中で、自分がもっとも関心のあるものを読むといいと思います。読んでいて楽しいものであれば、何度やっても飽きませんので…。ちなみに、筆者は映画が大好きなので、映画のDVDをモデル音声として、シナリオ本の音読をよくやります。映画を見ながら、英語字幕を出して「オーバーラッピング」をしたり、字幕を消して「シャドーイング」を行ったりもします。

 

4. 音読のモニター 

音読の練習をしたら、自分の音読がどのくらい上達したかを知りたいですよね。それには、自分の音読を自分で聞いてみる必要があります。そこで、筆者が自分の生徒にさせている方法をお教えしましょう。

 

自分で自分の音読を聞くには、自分の音読を録音または録画するしかありません。かつて、筆者の学校ではポータブル・カセット・レコーダーをクラスの人数分用意し、各自に音読を録音して聞き返すという活動を授業で行っていました。今ではそれをICレコーダーを使って行っています。生徒は、中1の最初から中3の最後まで、自分の音読の記録を自分のSDカードに“宝物”のように残してあります。本ページのトップにある3枚の写真の一番左は音読を録音している場面です(中央の女子生徒はレコーダーを口元に持っていっています)。

 

この方法をみなさんにもお勧めします。お手持ちの録音できるデバイスなら何でもいいと思います。ぜひ一度、ご自分の音読の声を録音して聞き直してみてください。そうすると、自分の発音等の直すべき点が自分でわかります。できれば最初に練習した時に一度録音し、しばらく練習を繰り返してから再度録音したものと聞き比べてみてください。そうすると、練習によってどれだけ自分の音読が上達したかがわかります。また、それらはぜひずっととっておいてください。ある程度の期間を過ぎてから聞き直してみると、練習を積み重ねてきたことで、初期の頃に比べると現時点の方がかなり音読が上達していることにも気づくでしょう。

 

自分の録音された声を聴くというのは、初めて行ったときはとても奇妙な気持ちになります。まず、自分が普段から聞いている自分の声と録音された声が少しちがうからです。これは頭蓋骨の中を響いて聞こえる声と録音された声では音質がちがうことによります。もちろん、客観的な音質は録音されたものです。次に、自分の声の調子や感情の込め方などが恥ずかしく感じる人もいるかもしれません。それだけ自分の声を客観的に聞くということに慣れていないからですね。でも、すぐに慣れますから、ぜひやってみてください。

 

英語教師の方々へ

ここまでお読みいただいて、音読がいかに大切な活動であるかをご理解いただけたと思います。もし先生の授業であまり音読が行われていないようでしたら、ぜひ毎時間しっかりやるようにしてみてください。コミュニケーション活動も大切ですが、それをしっかり行うための土台作りとして音読は重要な練習活動です。

 

授業では先生のモデル音読について練習をするのが一番ですが、もしご自身の英語に自身がない場合は、CDの音声やALTのモデル音読を上手に利用してください。中学生のときの音読経験、特に1年生の音読経験は、その後の生徒の発音や表現力に大きな影響を与えることが筆者の経験でわかっていますので、ぜひともご自身の生徒たちのために音読をしっかり行ってあげてください。

 

③ 教科書の本文を暗唱する へ 

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