これを読めば the の使い方がわかる④:難題思考編

9. これを読めば the の使い方がわかる③:疑問解決編」を作成した時点で、the の使い方に関するおおかたの説明を終えたつもりでいました。しかし、中には見かけ上それでは説明しきれないものがあることも確かです。そこで、今回はそのような例を取り上げ、なんとか論理的に説明してみたいと思います。タイトルの副題を「難題思考編」としたのは、そのような理由からです。

 

1. 共通理解のある普通名詞なのにtheが付いていない例

the が付く基本をあてはめた場合、よく見かける次のような固有名詞はどう考えたらいいでしょうか?

 

・Higashi Junior High School(東中学校) 

・Yokohama Station(横浜駅)

・Midori Park(綠公園) 

・Kasuga Street(春日通り)

 

いずれも固有名詞でありながら、最後に太字部の普通名詞を持っています。基本のルールから言うと、the が付くはずですが、付いていないのはどうしてなのでしょう?

 

これについては長年不明なままで、なぜ the が付かないのか理解できていませんでした。いろいろな文法書やネットの解説などを読んでみましたが、いずれの場合も「学校、駅、公園などの公共物には the は付かない」という説明があるだけで、それが「なぜ?」なのかはわかりませんでした。確か、ピーターセン氏の『日本人の英語』にも書かれていなかったと思います。

 

ところが、今から10年以上前に、OED(Oxford English Dictionary) という世界で最も権威のある辞書の公式ホームページにある Forum(執筆者や一般人が意見を交わすコーナー)で、次のような記述を発見しました(現在は原文が見当たらないので、その時の内容の記憶です)。

 

その地区に住んでいる人たちの生活に根付いていて、人々が親しみを感じている公共物は、例えそれが普通名詞を含んだ名前であっても、the が落ちる傾向がある

 

これを読んだときに長年の疑問が解けました。確かに、学校、駅、公園などの the が付かない公共物はその地区の人たちにとってはなじみのあるものばかりです。おそらく、それらはもはや固有名詞と同じ扱いになっているということのようです。また、theが付くとかなり堅い感じがしますし、それだけ語数も増えますから、the を落としてしまったようなのです。

 

「論理的に説明してみたい」と言いながら、結局は「~の場合は…になる」という説明になってしまいましたが、こればかりはどうしようもないことなので、ご了承ください。

 

2. 同じ表現なのに、the があったりなかったりする例

筆者が the の使い方について授業で取り上げてしばらくして、ある生徒から次のような質問を受けました。

 

「授業ではWhat did you do during the spring vacation?と言っているのに、『基礎英語』(NHKのラジオ番組)ではduring spring vacationと言っていました。ちがいは何ですか?」

  

その場ですぐに答えられなかったので、保留にしてもらって、答えを考えてみることにしました。その結果の答えが、以下の2つです。実は、どちらが正解なのかはわからないのですが、論理的に考えた“可能性”を紹介します。

 

① 指している「春休み」が異なる

→これが最も基本的な考え方です。the のある/なしで2つの意味のちがいが考えられます。

・ある→共通理解が得られているので、話の流れとして直近の春休みを指す。

・ない→共通理解が得られていないので、「一般的に春休みは」と例年の春休みを指す。または、「春休み」といっても、人によって時期も期間もちがうので、特定できないから。

前後関係がわからない場合は何とも言えませんが、過去形の疑問文で「一般的に春休みは」と尋ねることはあまり無さそうなので、普通であれば the が付きそうですが、実際には付いていないということは、「ない」の後半のように考えるのが筋ですかね。

 

② the がない方は、「春休み」を身近な存在のものとして固有名詞のようにとらえている

→内容的に①のようなちがいがない場合は、前項で議論したこちらの解釈が可能です。during が無ければ、「spring vacation を yesterday や last Sunday のように副詞的に使っている」と解釈できなくもありませんが、前置詞の後ろにあるかぎりは名詞(句)として考えなければなりません。ただ、いくら生徒にとっては毎年訪れる春休みであっても、「慣れ親しんだ公共物」と考えるのは少々無理があるような気もします。

 

 

改めて読んで考え直すと、①の方が論理的な気がしますが…。

 

いかがだったでしょうか。今回は the の使い方を論理的に説明しきれていないかもしれないことをあえて取り上げて、そのこと自体を論理的に説明してみました。言語は論理性だけでは説明しきれないことも多く、特に英語は世界中のいろいろな言語的・文化的な背景を持つ人々が使っている言語なので、使う人によって「ゆらぎ」があることも確かです。しかし、伝える相手がいる以上、一定のルールの上に使わないと、互いの意思を正しく伝えることはできません。そのような視点から、英語の文法を改めて論理的に説明してみようと考えることは価値のあることだと思います。(11/21/2018)