音読は「話すこと」の基礎を支える大切な活動である

1. 音読の大切さ

もう20年近く前のことになりますが、筆者は勤務校と同じ敷地内にある高校で、「オーラル・コミュニケーション」(旧学習指導要領下の科目)という授業を担当したことがあります。その授業では、生徒は一人3分間の自由スピーチをすることになっていました。生徒にとってはけっこうハードルの高い活動なので、事前指導として原稿チェックと発表練習を行っていましたが、その中に今でも忘れられない、ある女子生徒がいました。

 

その生徒は、中学校時代はその学校に一人いるかいないかというくらい優秀な生徒でした。はたして事前に書いてきた原稿は、その生徒の優秀さを示す素晴らしいもので、ほとんど直すところはありませんでした。ところが、その後にその原稿を音読させてみて、大変驚きました。

 

なんと、何を読んでいるかわからないほどの発音なのです。いわゆる「ジャパニーズ・イングリッシュ」などというレベルではありません。英語であることがわからないほどであったのです。これでは、仲間に語りかけるようなスピーチを行うどころか、単に原稿を読み上げるだけでもおぼつきません。不思議に思って、中学校時代に授業で教科書の音読をどのくらいしたことがあるかを尋ねたところ、なんと3年間で一度も音読をしたことがなかったというのです。3年間同じ先生に習ったとのことですが、その先生は、いつも一人で英語を読んで訳しているだけで、生徒に英語を話させるという活動をほとんどしなかったそうです。

 

これでは音読ができないのも仕方がありません。そこで、少なくとも自分が書いたスピーチ原稿を他の生徒にもわかる程度の発音、リズム、抑揚で読めるように、他の生徒より時間をとって、マンツーマンで指導しました。それだけで音読がみるみる良くなったということはありませんでしたが、最初に聞いたときよりは上達したように思います。

 

この生徒は極端な例ですが、この生徒のおかげで、日頃から音読をしっかり行うことが英語を話すことの基礎を支えているということを確信しました。そうです。本ページの読者の方は、「より良い発音で英語を話したい」と思っている方が多いと思いますが、それを実現するためには、しっかり音読を行うことが大切なのです。

 

某有名予備校のテレビCMで、今回取り上げる音読の重要さを述べているものがあります。大学受験を目指す学生を教える予備校の先生が音読の大切さを述べ、それが学生の間でも評判になっているというのが面白いなと思いますが、長年音読を重視して指導してきた者からすると、「そうだ!そのとおりだ!いいぞ!」と思わず叫んでしまいます。予備校の有名講師も勧める「音読」の効果を、みなさんも試してみてください。

 

2. 音読の方法

では、音読の練習を自分でする場合、どのようにやったらいいでしょうか。筆者が授業で行っている活動を中心に、いろいろなバリエーションを紹介します。

 

(1) リピート(repetition)

モデル音声の後について、テキストを見ながら一文ずつ読む練習をするものです。最もポピュラーな活動で、多くの人がやったことがあると思います。モデルの個々の発音、単語間の音の変化、抑揚、登場人物の気持ち等をよく聞き取り、それをすべて真似るように読みます。

 

(2) オーバーラッピング(overwrapping)

モデル音声に合わせて、テキストを見ながら読む練習をするものです。ネイティブのリズムやスピードに慣れる方法として効果があります。いきりなりやるのは難しいので、まずは何度かモデルを聞いて、発音、リズム、スピードをつかむようにします。読み始めると自分の声でモデル音声が聞こえづらくなるので、モデル音声を少し大きめの音量にする必要があります。

 

 

(3) 個別(individual)

モデル音声に合わせることなく、自分のペースで読む練習をするものです。ある程度モデルを聞いて、独力で読めるようになってから行います。音読の最終段階として行うものです。途中で止めたり、言い直したりできるので、できるようになるまで何度も練習できます。重要なのは、自分のペースであるからとボソボソ言うのではなく、その時点で自分ができる最高レベルの音読を目指すことです。

 

(4) シャドーイング(shadowing)

 

モデル音声を後から追いかけるように、テキストを見ずに英文を再生するものです。したがって、正確に言えば「音読」でななく、話す練習と言えます。自分が言っている間もどんどんモデル音声が進んでいきますので、両方に気を配らなければなりません。聞こえた英文をリピートする中では最もレベルの高い活動と言われており、独学で英語マスターになった人の多くがこの方法で練習したと言います。

 

以上が英語学習者の間でよく行われている音読の方法です。いつも同じ方法でやっていると飽きてしまうこともあるので、いろいろ試してみてください。

 

3. 音読の教材

音読の対象となる教材は何でも結構です。中・高の教科書が手元にあれば、それがもっともとっつきやすい教材ですが、他にもいろいろなものがあります。例えば…

 

・本や絵本

・新聞や雑誌の記事

・歌の歌詞

・映画のシナリオ

 

などがあります。その中で、自分がもっとも関心のあるものを読むといいと思います。読んでいて楽しいものであれば、何度やっても飽きませんので。ちなみに、筆者は映画が大好きなので、映画のDVDをモデル音声として、シナリオ本の音読をよくやります。映画を見ながら、英語字幕を出して「オーバーラッピング」をしたり、字幕を消して「シャドーイング」を行ったりもします。

 

4. 音読のモニター ※12/22/2018追加

音読の練習をしたら、自分の音読がどのくらい上達したかを知りたいですよね。それには、自分の音読を自分で聞いてみる必要があります。そこで、筆者が自分の生徒にさせている方法をお教えしましょう。

 

自分で自分の音読を聞くには、自分の音読を録音または録画するしかありません。かつて、筆者の学校ではポータブル・カセット・レコーダーをクラスの人数分用意し、各自に音読を録音して聞き返すという活動を授業で行っていました。今ではそれをICレコーダーを使って行っています。生徒は、中1の最初から中3の最後まで、自分の音読の記録を自分のSDカードに“宝物”のように残してあります。今ではほとんどのみなさんが学校でタブレットを使っていると思います。それに自分の音読を録音して聞いてみましょう。

 

この方法をみなさんにもお勧めします。お手持ちの録音できるデバイスなら何でもいいと思います。ぜひ一度、ご自分の音読の声を録音して聞き直してみてください。そうすると、自分の発音等の直すべき点が自分でわかります。できれば最初に練習した時に一度録音し、しばらく練習を繰り返してから再度録音したものと聞き比べてみてください。そうすると、練習によってどれだけ自分の音読が上達したかがわかります。また、それらはぜひずっととっておいてください。ある程度の期間を過ぎてから聞き直してみると、練習を積み重ねてきたことで、初期の頃に比べると現時点の方がかなり音読が上達していることにも気づくでしょう。

 

自分の録音された声を聴くというのは、初めて行ったときはとても奇妙な気持ちになります。まず、自分が普段から聞いている自分の声と録音された声が少しちがうからです。これは頭蓋骨の中を響いて聞こえる声と録音された声では音質がちがうことによります。もちろん、客観的な音質は録音されたものです。次に、自分の声の調子や感情の込め方などが恥ずかしく感じる人もいるかもしれません。それだけ自分の声を客観的に聞くということに慣れていないからですね。でも、すぐに慣れますから、ぜひやってみてください。(12/22/2018)(2/22/2023)

 

英語教師の方々へ

「音読」は、学習指導要領によると、「読むこと」の指導・評価項目となっています。文字どおり、音声に出して読み上げる活動であるので、そうなっていることもうなずけます。しかし、「読む」という行為は、本質的には書かれている文字、語句、文、文章の内容を読み取ることを指すのではないでしょうか。その意味で言うと、教科書の本文等を声に出して読みあげる行為は「読む」というよりは「話す」活動だとも考えられます。

 

勤務校では、20年以上前から音読を「読むこと」の指導・評価項目ではなく、「話すこと」のそれに入れています。それは、上記のように、音読が「話すこと」の基礎を支える活動だと考えているからです。すべての学年・学級で定期的に音読の発表会(「リーディング・ショー」という名の実技テスト)を行っていますが、その際につけた評価点は「話すこと」の評価点として、「表現」の観点別評価の評価材料としています。

 

公立校では学習指導要領にそぐわない評価(達成度評価)を行うことは難しいと思いますが、生徒の学習意欲を高めるもの(形成的評価)として、音読活動を「話すこと」の基礎を支える活動に位置づけ、授業でもそのことを生徒に伝えれば、生徒も音読を「読まされている」と感じることなく、意欲的に取り組むと思います。