Best, 「最も良い」?

今回の表現は、外国の人とメールのやりとりをした人なら一度は目にしたことがある表現でしょう。筆者もこれまでにお付き合いのあった数名のALT(assistant language teacher)の先生がメールの最後に "Best," "Best regards," "Regards," の3種類を使っていたのを知っていたので、「"Best," は "Best Regards," の省略ではないか?」という予想は立てていましたが、これを機会にはっきりさせようと思いました。

 

まずは、いつものように当該の語の元の意味を見ていきましょう。best と言えば、good - better - best(形容詞)あるいは、well - better - best(副詞)と活用する場合の「最も~」という意味で使われる「最上級」ということは知られています。したがって、おそらく「最も~」の後ろに何かが省略されているのではないかと想像できますね。後ろに名詞が来る状況で使われているなら形容詞、文の最後に「~する」という動詞に「最も~」とかかる意味で使われているなら副詞と言えるでしょう。

 

筆者が現在使っている令和3年度版教科書 One World(教育出版)にも載っているので巻末の Word List を見ると、「(手紙などで)よろしく」とあります。しかし、これだけではなぜ best(最も良い/良く)がそういう意味で使われるのかがわかりません。また、以前の教科書であれば、手紙の最後には "Sincerely yours," "Sincerely," "Yours," などを用いることが載っていたはずです。これらとのちがいは何なのかということも気になりますね。

 

そこで、まず "Best," について調べて見ると、まず2つの説が見つかりました。

 

1つは、(I) Wish you all the best.(幸多かれと願っています)の最後のbestだけが残ったという説です。手紙の最後の部分ですから、日本語の手紙で「ご多幸をお祈りしています」などと書くのと同じ発想から出てきた表現ですね。それを全文書くのは面倒だとか、そういう意味を持たせながら簡単に手紙を締めくくりたいなどの意図で最後の best だけが残されたというものです。

 

もう1つは、筆者と同じように外国の人とメールなどでやりとりをしたことがある人なら知っていると思いますが、With best regards, の省略とする説です。regardとは「配慮、心遣い、敬意」という意味で、件の句は「最高の敬意を持って」という意味になります。先述したとおり、ALTの先生や他の外国人からのメールを見ると、Best regards, Regards, Best, の3種類がよく使われています。

 

結局、上記のどちらの説が正しいのか、あるいは他にもそれらしい説があるのかははっきりしませんでした。ただ、よく使われる上記3つの表現を見ると、もっとも語数が多い(!)のは Best regards, なので相手が目上の人のときや少しかしこまった内容のメールを送るときはこれを使い、そうでもないときは Regards, または Best, を使うのがいいような気がします。

 

次に、"Sincerely yours," "Sincerely," "Yours," とのちがいを調べて見ると、次のようなことがわかりました。

 

・"Best regards," "Regards," "Best," も "Sincerely yours," "Sincerely," "Yours," もビジネス・レター(メール)に用いられるが、前者の方がカジュアルで気軽な相手や内容の場合に用いられ、後者はよりフォーマルな相手や内容の場合に用いられる。

 

・上記の後者の場合、最もフォーマルな印象を与えるのが "Sincerely yours," で、 "Sincerely," と "Yours," はそれよりも少しフォーマル度が落ちる。

 

sincerely という語には「心から」「本当に」という意味がありますが、これは「嘘偽りのない」「正直な」という意味の形容詞である  sincere を副詞にしたものなので、これを使うと少々固いイメージを相手に伝えることになります。

 

実は、筆者もメールを送り始めた初期の頃(1990年代後半)は  "Sincerely yours," "Sincerely," "Yours," の3つを相手や内容によって使い分けていましたが、相手から送られてくるメールに "Best regards," "Regards," "Best," が目立つようになってからは前者をいつの間にか使わないようになりました。

 

そこで、最後に結論です。みなさんは次のように使い分けてはいかがでしょうか?

 

○相手が友人や知り合いの場合

 →相手と自分との関係や内容によって "Best regards," "Regards," "Best," を使い分ける。

○相手が初めてで立場が上の人の場合

 →内容によって "Sincerely yours," "Sincerely," "Yours," を使い分ける。

 

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