なぜ副詞の最上級には the が付かないの?

今回の話の本題に入る前に、中学校や高校の英語の授業で「形容詞の最上級には the が付くが、副詞の最上級には the は付かない。ただし、最近では副詞でも the が付く例が増えてきて、むしろ普通になりつつある」ということを習っていることが前提となります。筆者の場合は、この前提の1文目のことについて中学校で習いました(当時の教科書はズバリそのように使い分けていました)。「ただし」以降のことは、教員になってから生徒に教えるようになって覚えたことです。

 

さて、件の最上級に付く the のことですが、一般的には次のような例文を使って説明されます。

 

① He is the fastest runner in his class.

② He runs (the) fastest in his class.

 

①の fastest の原形の fast は「速い」という意味の形容詞です。これに対して②の fastest の原形の fast は「速く」という意味の副詞です。①の fastest は runner という名詞にかかること(「速い」→「走者」)、②の fastest は run という動詞にかかること(「速く」→「走る」)からそれぞれの品詞がわかります。以上をもって最初の段落に書いたような説明がなされるわけです。

 

では、なぜ上記のようなちがいがあるのでしょうか?

 

ここで、答えが思いつかなかった人は、「7. これを読めば the の使い方がわかる①:基本理解編」を読んでからこちらにお戻りください。答えが思いついた人は、これから書くことを読んでその答えを確認してください。

 

【Intermission】休憩

 

それでは、今回の疑問を解決していきましょう。

 

the の使い方によれば、「the は話者の間で共通理解の得られている普通名詞に付く」でした。①の文では、その普通名詞は fastest に修飾される runner になります。一方の②を見てください。同じような単語である fastest に修飾される普通名詞が直後にあるでしょうか? そうです。そのような普通名詞はこの文にはありません。なぜなら、fastest はその前にある動詞 run を修飾しているからです。なお、②の後半に class という普通名詞がありますが、これは in his class という前置詞句で1つのチャンク(意味の固まり)になっているので、この普通名詞には fastest の効力は及びません。

 

これで答えがわかりましたね。

 

副詞の最上級の文では、その最上級が修飾する名詞(普通名詞)がないので、the が必要ない(付けられない)のです。

 

ところで、冒頭で「最近では副詞でも the が付く例が増えてきた」と記しました。その理由は、本来は副詞の最上級には the が付かないはずなのに、話しているときに fastest が形容詞なのか副詞なのかなどを考えている余裕がないので、一律に最上級には the を付けてしまうという例が増えてきたからだと思われます。特に、外国語として英語を習っている人にとっては、それが形容詞か副詞かなどということを一瞬のうちに判断するのは難しいですから、そのような非母語話者が増えたことで本来の使い方と異なる使い方が定着してしまったのでしょう。

 

中学校の教科書でもこの傾向が反映されており、多くの教科書で次のような表記がされています。

 

・He likes soccer the best of all sports.

・She can swim the fastest in her class.

 

上の2文の best と fastest は、それぞれ well, fast という副詞の最上級ですが、the が付いています。

 

今回の話も「目から鱗が落ちる」ことになったようでしたら嬉しいです。

 

元に戻る