音節を意識して発音する

音節については、すでに「P4. 音の強弱を意識して発音する」の練習で「2音節の単語」などとして紹介済みです。もっとも、読者の方が中学生以上であれば、音節についてはある程度の知識を持っているでしょう。ただ、おそらくそれはアクセントの位置を示すために便宜的に示されたものを覚えているか、形容詞・副詞の比較級を学習したときに -er, -est を語尾に付けるか more, most を前に置くかの基準として話題になったことを覚えているくらいではないかと思います。

 

しかし、私たち日本人の英語学習者にとって、音節ほど英語らしい発音をできるようになるために大切なものはありません。ここではそれを理解し、それを意識して発音練習をしてもらいたいと思います。 

 

1. 「音節」とは?

改めて「音節とは何か?」と問われると即答するのは難しいですね。「音(音)」の「節(ふし)」と書きますから、何らかの”音声上の区切り”であろうということは想像できます。そこで、まず音節の定義を見ていきましょう。

 

「普通は母音を中心として、前後に境目があると感じられる音声上の単位を音節(sylabble)と呼ぶ。」(竹林滋・斎藤弘子著『新装版 英語音声学入門』大修館書店、p.125)

 

日本語で「こたつ」と言った場合、"ko-ta-tsu" のように3つの音に分けられることがわかります。逆に言えば、"ko" ”ta" "tsu" という3つの音の連続で1つのことばができているということになります。この1つ1つの音の単位を「音節」と言います。日本語では、それをひらがなやカタカナで表した場合、ほとんどのことばの1文字ずつが1音節になります。それは、ひらがな、カタカナの各文字の発音に母音が含まれているからです。

 

ところが、英語ではそう簡単にいきません。例えば、「ヘリコプター」は日本語では5音節(he-ri-ko-pu-ta)ですが、英語では hel-i-cop-ter と4音節になります。また、「クリスマス」は日本語だと5音節(ku-ri-su-ma-su)になりますが、英語では Christ-mas の2音節です。それは、例えば前者であれば hel-i-cop-ter の4カ所、後者であれば Christ-mas の2カ所にしか母音がないからです。

  

ここからわかることは、英語の音節を意識しないで日本語のように発音すると、ネイティブ・スピーカーは音節のちがう別の単語だと聞き取ってしまうということです。つまり、“ジャパニーズ・イングリッシュ風”発音では相手に正しく伝わらない可能性があるということになります。この点については、「P4. 音の強弱を意識して発音する」の「2. 面白い実験」で具体的な例を示しました。それだけ英語を発音する際は「音節」を意識することが大切だというわけです。

 

2. 面白い事実

話を単語から句、節、文のレベルにまで広げみましょう。次の表現はそれぞれ全部で何音節でしょうか。

 

① ほたるのひかりまどのゆき

② When I was young, I'd listen to the radio.

 

①は日本語ですから、ひらがなの数だけ音節があります。つまり計12音節です。②は When / I / was / young / I'd / lis/ten / to / the / ra/di/o なので、計12音節です。

 

さて、勘のいい人はすでに気づいていると思いますが、①も②もある歌の最初の一節です。①は「蛍の光」、②は "Yesterday Once More" の歌い始めの部分です。この2つの歌の楽譜を見てみると、面白いことがわかります。 

 

 

まず「蛍の光」は、それぞれのひらがなが1つの音符の上にのっています。つまり、1音符に1音節です。ただし、2カ所(「-」の部分)が長く延ばされてそれぞれにもう1音符が与えられているので、計14音符が使われています。

 

次に "Yesterday Once More" は、この部分に12音符が使われています(13音符目は同じ音が延ばされている)。しかも先述した文の音節どおりに各音節が音符にのせられています。つまり、こちらも1音符に1音節です。

 

ここからわかることは何でしょうか?

 

そうです。歌の歌詞は、基本的に1音符につき1音節がのっているということです。日本語はそれが1文字が1音節になるわけですが、英語は単語の音節数によってそれが変わります。例えば、1音節の単語であればその単語全体が1つの音符に、2音節(listen)や3音節(radio)の単語であればそれぞれ2つの音符、3つの音符に分けられて音節ごとにのっています。

 

この事実は、中学校や高校の英語の授業でもあまりふれられていないようです。なぜなら、筆者が大学の「英語音声学」の授業でこのことを扱うと、ほとんどの学生が「知らなかった」とか「驚いた」などと言っているからです。英語の先生も、「英語に興味を持ってもらうため」あるいは「英語らしい発音やリズムの練習になるから」という考えで授業で生徒に歌を歌わせている人は多くいますが、「英語の音節に慣れてもらうため」に英語の歌を使っているという人はあまり多くないのではないでしょうか。

 

筆者も当初は前者の考えを持つ教員の一人でしたが、後者のように考えるようになってからは、授業で英語の歌を扱うときの指導内容と指導方法が変わりました。生徒に歌わせるときは音節を意識して歌わせるようになったのです。そうすると、歌は単なる「楽しい」だけの活動から「発音を向上させる」活動にもなることが生徒にもわかり、彼らも音節を意識して歌うようになりました。それは授業中に歌っているときだけでなく、彼らがその歌を休み時間に口ずさんでいるときにもわかります。

 

さあ、この事実を知ってしまったみなさん。自分の大好きな歌を歌うときは、(できれば楽譜を見て)音節を意識して歌ってみてください。すると、それまでとはまったくちがった世界が見えてくるはずです!そして、そのようにして歌を聞いてみると、初めて聞いた歌でも以前より歌詞が聞き取り易くなったことにも気づくでしょう。音節を意識することは、リスニング力のアップにもつながるのです。

 

3. 音節の区切り方

ここまでを読んで、音節について理解し、それを意識して発音したり聞いたりすることが大切だということ、そしてそれを練習するには英語の歌を歌うことが有効であるということがわかってもらえたと思います。しかし、一方で「英語の音節ってどうやって区切るんだろう?」という疑問を漠然と(明確に?)持ちながら読み進めてきた人もいると思います。

 

1. で示した2つの単語の音節を見ると、「Christ-mas の区切りはなんとなくわかるけど、hel-i-cop-ter はどうしてそこで区切られるのかわからない」という疑問を持つのではないでしょうか。実は、筆者自身も中学生の頃から単語のアクセント問題に示されていた音節の区切り方に疑問を持っていました。

 

まず、その疑問に対する最も単純な答えは、「かなり面倒なルールがあるので、覚える必要はない」です。それは、それらを覚えたからといって、英語の発音がよくなるわけではないからです。しかし、だからといってそれで終わってしまっては元も子もないので、ここではその基本的なルールをまとめておきます。

   

(1) 接頭・接尾辞がある場合:その前後で切れる

意味の異なる複数のことばでできているので、その間の部分が区切りとなります。

① 接頭辞

import → im-port

extend → ex-tend

income → in-come

outdoor → out-door

return → re-turn

unfair → un-fair

company → com-pany

conclude → con-clude

preview → pre-view

profile → pro-file

 

② 接尾辞

beautiful → beau-ti-ful

visual → vis-u-al

comfortable → con-fort-able

happiness → hap-pi-ness

identify → i-den-ti-fy

 

(2) 子音が続く場合:子音の間で区切る

異なった子音字や同じ子音字が連続する場合は、その間で切ります。

after → af-ter

connect → con-nect

excellent → ex-cel-lent

 

(3) 子音が母音に挟まれている場合

① 直前の母音が強勢のある短母音:子音の後ろで区切る

lemon → lem-on

visit → vis-it

forest → for-est

 

② 直前の母音が強勢のない短母音または弱母音:子音の前で区切る

among → a-mong

event → e-vent

 

③ 直前の母音が長母音または二重母音:子音の前で区切る

major → ma-jor

icy → i-cy

over → o-ver

Luna → Lu-na

location → lo-ca-tion

 

(4) 異なる母音が連続する場合:母音の間で区切る

二重母音のようでも完全に異なる音が連続する場合はその間で切ります。

idea → i-de-a

medium → me-di-um

situation → sit-u-a-tion

 

(5) 語尾の発音しない -e(サイレントe)がある場合:その部分は音節に含まない=切らない

最後の -e を発音しないということは、そこには母音がないからです。

make, Pete, like, hope, cute →2音節に見えるが1音節

amuse → a-muse

 

(6) その他:語尾が -le の場合

いずれも -le の部分には母音の音を含みませんが、その部分を1音節とします。

① -ckle で終わる語:-le を切り離す(母音の発音はない)

tackle → tack-le

chuckle → chuck-le

 

② -le の前が子音の語:子音を含めて切り離す

apple → ap-ple

muscle → mus-cle

struggle → strug-gle

  

<まとめ>

いかがでしたか。音節は単なる発音問題の音節の切れ目を示すためにあるのではなく、それを意識することで、発音技能を向上させるために重要な役割をはたすものであることがわかっていただけたでしょうか。ぜひ、これからは単語を発音するとき、文を言うとき、歌を歌うときに音節を意識して発音してみてください。

 

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