② 映画の主人公になって話してみる

(2) 筆者の経験から

今回は丸々筆者の個人的な体験談からタイトルに関することをお話ししましょう。「学習法に関すること」「7. 映画は究極の英会話教材」でもお話ししたことですが、筆者は洋画が大好きで、中学生の頃から洋画をよく観ています。そして、その中で出会った表現を日常会話の中でもよく使っています。それは次のような事情からです。

 

洋画をよく観ていたと言っても、映画館で1回見ただけでそこで使われていた表現を覚えたわけではありません。筆者はそんな“天才”ではありません。また、当時(1970年代半ば)はDVDもビデオ(映画ソフト)もありませんから、自分の見たい映画を繰り返し見ることはできませんでした。

 

そのような時代に、ある音声ソフトが唯一筆者の欲求を満たしてくれました。それは、中学校3年生の時(1976年)に購入した『燃えよドラゴン』のサウンドトラックLPレコードでした。サウンドトラック・レコード(今ではCD)というのは、ふつうはその映画で使われた音楽を収録したものですが、件のレコードはなんと映画1本分をすべて収録したものでした(冒頭のある1場面だけ未収録)。おそらく、そんなレコードは後にも先にもその1本(2枚組)だけだと思います。

 

このレコードにはシナリオも付いており、それを見ながら音声を聞くことができます。このレコードを聴くということは、当時としては画期的なことでした。なぜかと言えば、DVDどころかビデオも当時はなく、見たい映画を好きなときに繰り返し見るというのは不可能だったからです。この状況を理解してもらえれば、筆者がそのレコードをどのように聴いていたかも想像できるでしょう。そうです。むさぼるように何度も何度も聴いていたのです。

 

最初の頃は付属のシナリオを見ながら聴いていました。ところが何度目からかはそれも必要がなくなりました。その場面を思い浮かべるだけで何と言っているか細かい表現までがわかるようになったからです。そして、レコードから聞こえている台詞と同時にその台詞を言えるようになりました。そうです。約1時間40分のその映画を丸々“再生“できるようになってしまったのです。

 

この経験から習得した表現は45年も経った今でも忘れていません。しかも、授業(筆者の学校では中1の最初から基本的に英語で授業をしています)で使う英語の中にそこから学んだ表現がいっぱい使われています。その後はビデオなどで繰り返し見ることができるようになりましたから、他の映画からもたくさんの表現を学びそれを授業で使っています。つまり、結果的に暗唱できるようになった表現を実際の会話場面で使っているということです。

 

また、授業中に生徒から「○○という表現は使えますか?」とか「〜のような時は何と言ったらいいですか?」というような質問を受けた時にも、「う〜んと…。それならね、『○○○』という映画のある場面で“………”と言っているからそれでいいんじゃない?」などと答えることが…あります。つまり、それまでに見た映画の台詞が筆者の頭の中でデータベースとなっていて、それを教材として使っているのです。

 

このことからも、ストーリーや場面のある教科書本文を暗唱できるくらいまで読み込むこと、そして結果として暗唱できることがいかに「英語を使いこなすために」重要な活動の1つであることがわかるでしょう。「よく耳にする表現」のコーナーで取り上げられている表現の多くも、そうして頭に残っていて実際に使えるようになったものです。

 

先日、久しぶりに『燃えよドラゴン』をアマゾン・プライムで見ました。60歳になった今でも中学生の時に頭に入れた、というか入ってしまった台詞は健在でした。ほとんどの場面で登場人物とほぼ同時に台詞を言うことができ、時には待つことができなくて先に言ってしまいました(笑)。

 

ぜひ、みなさんも映画やドラマの主人公になって、会話を楽しんでみてください。大好きな映画やドラマであれば、台詞が丸々頭に残ってそれを使えるようになるでしょう。

 

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