must と have to は交換してはいけない

0. イントロダクション

筆者が学生だった頃、参考書や問題集の文法演習に「次の2つの文が同じ意味になるように、空所に適語を入れなさい。」という問題がたくさんありました。実は、今でもよく見かけます。これは、似たような意味を持つ表現を同時に覚えさせ、片方の表現を頼りにもう一方の表現を思い起こすことができるかどうかを問うものです。しかし、それらのほとんどは「同じ意味」などではなく、それぞれ異なった状況で使われる別の表現です。異なった表現であれば、伝えようとしている意味やニュアンスが異なるのは当然です。

 

では、なぜそのような問題が横行するのでしょう? それはその表現を日本語に訳したときに、まったく同じことばになっていたり、それぞれの表現が使われている状況まで理解されていなかったりしたので、日本人の英語学習者の多くが2つの表現は同じ意味のものだと思い込んでしまったからです。そして、それらを経験して育った英語教師もそれを正しいと信じ込み、それが代々引き継がれてきてしまっているからです。

 

そこで、ここではそれらの「同じ意味」とか「ほぼ同じ意味」と教えられてきた対になる表現を取り上げ、それぞれが持っている本来の意味を確認し、正確に使い分けられるようにしたいと思います。題して、「シリーズ『~と‥は交換してはいけない』」。その第1弾は、「~しなければならない」のmust と have to です。なお、「11. have to は『ハフトゥ』ではない」を先にお読みいただくと、以下の説明がより理解しやすくなると思います。

 

1. must と have to が使われる状況

次のような問題があったとき、あなたは must と have to のどちらを入れるでしょうか?

 

I (      ) study English hard. 私は英語を一生懸命勉強しなければならない。

 

え?「(  )が1つだから must でしょ」などと言わないでください。「空所に入る語は1語とはかぎりません」という条件があります。

 

実は、上記のような問題では、must も have to も入ります。これがこの2つの表現が「同じ意味」だとされてしまう所以でもあります。そこで、2つの異なった状況を上記の文の直前に加えてみます。

 

① I want to go to many foreign countries and talk with people there. 

   I (      ) study English hard.

 

② I want to play TV games, but I have an English test tomorrow. 

   I (      ) study English hard.

 

いかがでしょうか?  この問題では、それぞれ異なった状況が加えられたことで、同じ「英語を一生懸命勉強しなければならない」でもニュアンスが異なってきています。はっきりと must か have to のどちらが入るか見えてきているのですが、どちらを入れるか自信を持って答えられるでしょうか?まだ答えがわからない人のために、正解は次の説明の後に確認することにしましょう。 

 

2. must と have to の本来の意味

must の意味を英和辞典で調べてみると、「~しなければならない」「~すべきである」とあります。これだけでは have to とのちがいがわかりません。しかし、同時に「話し手の意思や命令を表す」という補足説明もあります。つまり、mustは「~しなければならない」という意味の中でもかなり強いニュアンスを相手に与える語だということがわかります。したがって、You must .... などと言うと、話し手が相手にかなり強い口調で何かを伝えようとしていることになります。You must not .... が「~してはいけない」という禁止の意味になるのもそのためです。

 

一方、have to の意味は、「11. have to は『ハフトゥ』ではない」でも取り上げた解釈で見ると、<have+to不定詞>であるので、「~することを持っている」→「~する状況をもっている」ということになります。これは、話し手の意思ではなく、「周囲の状況からそうせざるをえない」という場面で使う表現だということがわかります。また、否定形の don't have to が「~してはいけない」ではなく「~する必要はない」という意味になるのは、表現どおりの意味が「~する状況を持っていない」であるからです。

 

3. must と have to を正確に使い分ける

1.で出題した2つの異なった状況における「~しなければならない」で、①と②のそれぞれにmust と have to のどちらが入るかはもうおわかりでしょう。まだわからないという方のために、それぞれの状況を確認してみます。

 

①は、「私は多くの外国に行って、現地の人々と話をしてみたい」という願望があり、その上で「英語を一生懸命勉強しなければならない」と言っています。つまり、①の人にとっては、英語学習は自分の意志なのです。

 

②は、「テレビ・ゲームをやりたいけど、明日英語の試験がある」という説明があり、その上で「英語を一生懸命勉強しなければならない」と言っています。つまり、②の人にとっては、英語学習は周囲の状況から仕方なくやることなのです。

 

もうこれでおわかりですね。①が must で、②が have to です。

 

このような意味のちがいがあるのに、日本語で同じ「~しなければならない」という訳があるからと言って、この2つの表現が「同じ意味の別の表現を入れなさい」などという問題に使われるのはナンセンスであるということがおわかりになったと思います。

 

できれば、お手元にある教科書や本の中にあるmust や have to が使われている文を見てみてください。前後関係まで含めて理解すれば、そららは上記の説明どおりの状況で使い分けられているはずです。(1/27/2019)

 

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英語教師の方々へ

本文にもあるとおり、must と have to は異なった状況で使われる表現です。したがって、この2つが出てきたところで、ぜひとも2つの表現の意味のちがいを教えてあげてください。ただし、一方的に説明すると、生徒の頭は混乱してついてくれなく可能性がありますので、上記の説明のように、生徒に問題を投げかけ、ヒントとなることがらを少しずつ教えてあげ、最終的に生徒に正解を導かせるようなやり方をとるのがいいと思います。

 

そして、まちがっても、テストで must と have to を入れ替えさせるような問題は出さないでください。もし2つの表現を出題するのであれば、状況設定をしっかりして、正しい方を入れさせるような問題にしてほしいと思います。もちろん、そのためには事前に両者のちがいを教えておく必要があることは言うまでもありません。