形容詞の最上級なのに the が付かない場合があるの?

前回の「27. なぜ副詞の最上級には the が付かないの?」に続く、最上級と the の関係についての話です。そちらをまだ読んでいない方は、ぜひそちらを読んでからこちらにお戻りください。今回も読み終わったときに「目から鱗が落ちる」気持ちになっていただければ嬉しく思います。

 

今回は、最初に疑問に対する答えを述べましょう。答えは「ある」です。まあ、タイトルの問いかけの仕方からして、そういう答えは想像できたかもしれませんね。

 

次のような2つの例文を使ってそれを説明しましょう。

 

① The lake is the deepest in Japan.

② The lake is deepest at this point.

 

上記2文の意味は、①「その湖は日本で最も深い」、②「その湖はこの場所が最も深い」となります。いずれの文も deep(深い)という形容詞の最上級を使った文です。ところが、①は the が付いているに、②は the がついていません。これはいったいどういうことなのでしょうか。

 

答えを述べる前に、先述した「27. なぜ副詞の最上級には…」の内容を思い出してください。そうです。the が付くときは、それがかかる普通名詞があるときでした。

 

このように言うと、「えっ?でも、①には the がかかる普通名詞がないじゃないか!」と思われるかもしれませんね。実は、そうではないのです。①の文をもう一度よく見てください…。

 

①の文は、正確には次の①'(ワン・ダッシュ)ように書かれる(言われる)はずの文です。

 

①' The lake is the deepest one in Japan.

 

上記の one とは lake のことで、同じ単語を重複して使うことを避ける場合に使われます。そして、①を話す人の脳裏には、例えこの one(= lake)を言わなかったとしても、それが見えていているので、その one に the を付けているのです。つまり、①の文ではその one が省略されているというわけです。

 

では、②の方はどうでしょう。訳では at this point を「この場所が…」としましたが、より正確には「この場所で」という意味ですね。それに対して、The lake is deepest とは、「(この場所で)その湖は最も深い」と言っているわけです。おそらく、小舟か何かに乗って湖の最深部の上に来ているのでしょう。

 

この deepest の deep は「主語+be動詞+形容詞」で成り立つ文の形容詞、つまり「叙述用法」の形容詞です。「~が深い」と言っているだけで、「深い」の後に続く普通名詞はありません

 

これは、She is beautiful.(彼女は美しい) と言っているのと同じです。この場合は beautiful の前に冠詞は何も付きませんね。一方、She is a beautiful girl. であれば「美しい女の子」と言う意味で「美しい」は「女の子」という普通名詞を説明する語(これを「限定用法」の形容詞と呼びます)なので、beautiful の前に不定冠詞の a が付いています。いや、正確には a girl のように、girl に a が付いている表現の2つの語の間に beautiful が差し込まれているだけです。

 

二段落前の説明に対して、「*The lake is the deepest (point)  at this point. と考えれば普通名詞の point が見えるのではないか?」と考えた人もいるかもしれません。しかし、この文はまちがいです。be動詞は「=」(イコール)の働きがありますから、そのように言うと、"The lake" = "the deepest point"、つまり「その湖」=「最も深い場所」という意味になってしまうからです。つまりこれは「非文」(まちがった文)です。同じように、*The lake is the deepest one (=lake) at this point. という文も、「その湖はこの場所で最も深い湖です」(=「その湖は(他にもあり)、この場所にあるものが最も深い」)と、一見すると正しい文のようで実は論理的ではない意味になるので非文です。

 

もし、どうしても②の意味で使う deepest に the を付けたいのであれば、This is the deepest point of this lake.(ここはこの湖の最も深い場所です。)とするならいいでしょう。こうすれば、the は point に掛かりますし、this = the deepest point の関係も成り立ちます。

 

ということで、形容詞を叙述用法として使う場合は、たとえそれが最上級であっても the は付かないということになるのです。

 

どうだったでしょうか。今回も「目から鱗が落ちる」感覚を持っていただけたでしょうか。もしそうでしたら、大変嬉しく思います。

 

元に戻る