③ 教科書の本文を暗唱する

これをお読みの方が中・高生またはかつて中・高生であった方であれば、授業中に教科書の本文を「暗唱」したことがあるでしょう。「暗唱」とはある文や文章(ここでは教科書の本文)を覚えてそれを空で言うことを指します。おそらくみなさんは、英語の先生に「教科書本文を暗唱しなさい」という課題を出されてそれを実行したことがあると思います。本題に入る前に、教科書を暗唱するというのはどういうことを指すのかをお話ししましょう。

 

1. 「暗唱する」ということ

ここで提案している「暗唱」とは上記のような暗唱とは少し、いや「かなり」、ちがいます。では、どこがどうちがうのかと言うと、次の点がちがいます。

 

① 誰かに言われて行うのではなく、自分の意志で行う

ここでお伝えしていることは授業の課題ではありません。これをお読みの方が自分の意志で「やってみよう」と思ってやることを指しています。したがって、筆者はこれを「英語を使いこなすために」の1つの方法として提案しますが、それに納得しないままやる必要はありません。仮に積極的にこれが良い方法であると思わなくても、とにかく強制されたのではなく自分の意志で行うのだという気持ちは持って行ってください。

 

② 覚えるのが目的ではなく、「結果的に覚えてしまった」と思うくらいに読み込む

定期テスト前になると、ほぼ確実に「教科書本文は覚えた方がいいですか?」という質問を受けます。その時の筆者の回答はいつも「いいえ、覚える必要はありません」です。しかし、必ず一言付け加えます。それは「結果的に覚えてしまったという状態になるまで読み込んでください」です。その理由は、覚えることを目的に覚える練習をすると、テストが終わると忘れてしまうからです。一方、結果的に覚えてしまったというくらい読み込んだ末に覚えたことは忘れません。これは、みなさんの好きな歌は何度も歌っているうちに自然に覚えてしまい、何年経ってもそれを覚えているのと同じです。誰もその歌を覚えようとして覚えたわけではないと思います。

 

以上のことから、タイトルとしては「教科書の対話を暗唱する」という最終的な姿を示していますが、そこへ至る道としては、暗唱することを「目的」とするのではなく、それを「目標」または「通過点」あるいは「一時的な結果」となるように練習してもらいたいということです。ちなみに、筆者の学校では教科書本文を暗唱することを課題(宿題)にはしていません。ところが、多くの生徒が音読を繰り返し行っているうちに結果的に覚えてしまっています。

 

2. 暗唱の効果

いよいよ本題に入ります。暗唱はなぜ「英語を使いこなすために」重要な活動なのでしょうか。その答えのヒントはすでに出てきています。そうですね。暗唱するという行為によって、英語の表現を覚えることができるからです。しかも、単語カードで単語を覚えるのとはちがい、教科書の本文であれば必ずそこにはその表現が使われている場面状況があるので、その表現を実際に使うときにどういう場面で使えばいいかもわかるようになるからです。

 

上記のことに対する証拠として、筆者の教えている生徒のことを取り上げましょう。筆者の生徒にもいろいろなタイプの人がおり、英語学習に一生懸命取り組む人もいればそうでない人もいます。幸い、筆者の学校では前者の生徒が比較的多くいます。前者の生徒の特徴として、教科書本文をよく覚えているということがあげられます。例えば、新たな文型を導入するのに以前の授業で使用したピクチャーカード(教科書の挿絵や写真を大きく引き伸ばしたカード)を使うことがありますが、それは生徒がその場面やそこで使われた表現のことをよく覚えてくれているからです。そうすると、新たに場面設定をする必要もありませんし、場面の説明をする必要もありません。その場面と表現を上手に利用すれば新しい表現の意味を類推してもらいやすいからです。

 

そういう導入方法を採ったときに、しばしば感じて口にするのは「みんなよく覚えていたね」ということです。そう言うと、中にはその場面をそっくり再生し始める生徒も各クラスに複数います。そういう生徒は覚えようと思ってそれを覚えていたのではなく、授業でも家庭学習でも何度も何度も音読練習をしている間に自然に頭に入ってしまったのです。なぜなら、覚えることを日々の家庭学習に課していないからです。もちろん、授業でも復習の場面で暗唱できているかの確認をすることはありません。

 

また、このような生徒たちは、音読の発表会だけでなく、スピーチなどでも素晴らしいパフォーマンスを見せる傾向があります。発音がいいのはもちろんのこと、表現も教科書に出てきたものを上手に使っているので、聞いている仲間にも自分が話している英語を理解してもらえているという自信にあふれているように見えます。それはおそらく、自分の話す英語は教科書に書かれていたことをしっかりおさえて、それをベースにして話していると考えているからでしょう。

 

これらの事実は、授業でその表現が再生できたということだけでなく、いざ実際の会話で同様の場面に出会ったときにその表現をごく自然に使えるということを指しています。ですから、教科書本文を暗唱する、いや、暗唱できるようになるくらい読み込む、ということがいかに大切かがわかります。

 

3. 暗唱の実際 

では、実際にどのように暗唱を行ったらいいかということですが、ここまでの部分を読んだ方にはおおかた想像がついていることと思います。一応改めてまとめておきましょう。

 

① 教科書CDまたはQRコードのモデル音声をしっかり聞く

どのように音読したらいいかが身についている人なら必要ないかもしれませんが、多くの人の場合は暗唱したい箇所のモデル音声を聞くことをお勧めします。そして、個々の音や単語のアクセント、単語と単語の間の音の変化、文の強勢やリズム、イントネーションなどをしっかり頭に入れます。会話の場面であれば、登場人物のちがいによる表現の仕方も読み取るようにします。

 

② モデル音声に合わせて音読する

最も基本的なやり方は、1文ずつモデル音声の後についてリピートする方法です。直前のモデルを良く聞き、そのとおりに音読するようにします。他にもモデル音声と一緒に言う(overlapping)やモデル音声を追いかけるように言う(shadowing)などのやり方もあります。詳しくは本コーナーの「② 教科書の音読をしっかり行う」を読んでください。

 

③ 教科書の該当箇所を自力で再生する

いよいよ本活動のクライマックスです。説明文であればそれを他の人にもわかるようにじっくりと「語る」、会話文であれば登場人物のちがいにも注意しながらその場面が実際に行われていることをイメージして「会話する」。これをスムーズに、しかも楽しんでできればOKです。ただし、もし途中で詰まったり、なんとなくやらされている、やらなければいけない、ような気分でやっているようでしたら、②に戻ります。

 

さあ、これであなたの英語運用力が随分高まったと思います。授業中に暗唱するような場面があったら、積極的に取り組みましょう。

 

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