Make my day!「私の日を作れ!」?

今回紹介する表現は、今から約40年前に公開されたある大ヒット映画の中の“決め台詞”として有名になり、それ故によくパロディーとしても使われる表現です。その映画のことは後ほど紹介するとして、この表現を取り上げようと思いたったエピソードからお話しします。

 

2021年11月1日から始まったNHKの連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『カムカムエブリバディ』。このタイトルを聞いただけで、かつて英語を学んだある一定以上の年齢の方なら「あの伝説のラジオ英語番組だな」と思い浮かべることでしょう(ちなみに筆者は知識として知っている程度です…笑)。同ドラマは、その伝説の番組をモチーフにして、3代続くヒロイン(上白石萌音、深津絵里、川栄李奈)の人生を描く作品だそうです。

 

毎回、番組の最後に視聴者の投稿写真に英語の表現が加えられて紹介されるコーナーがあり、11月3日(祝)の第3話では、お年寄りの女性がかがんで孫と思しき男の子に「あなたのおかげで毎日ハッピーよ」と言っている場面が紹介されていました。その英訳が "You always make my day." とされていたので、タイトルの英語を思い出したというわけです。

 

さすが天下のNHKですね。件の日本語の表現をそのような英語にしたことに感心しました。筆者を含めて多くの人は、"I'm happy every day because of you." のように直訳してしまったかもしれませんね。それを make my day という表現を使ったところが面白いです。おそらく日本語の台詞の意味を最も的確に伝えられる英語の表現がそれだったのでしょう。

 

前置きが長くなりましたが、いつものように個々の表現を見ていきましょう。my day とは「私の日」ですが、これは「私が輝いている日」「私が幸せな日」というような意味合いで使われます。次に make ですが、これは「~を作る」とか「~にする」という意味ですね。そうすると、make my day は「私が幸せな日を作る(にする)」という意味になります。そうすると、『カムカム…』で紹介された表現は「あなたはいつも私の幸せな日を作ってくれる」というような意味になるわけです。もしこの英文が先にあったとしたら、「あなたは~する」ではなく、投稿された日本語のように「あなたのおかげで~」と意訳した方が英文の意図がよく伝わるでしょうね。

 

さて、冒頭で紹介した「大ヒット映画」とは、1983年に公開された『ダーディハリー4』(Sudden Impact)のことです。クリント・イーストウッドが主演したサンフランシスコ警察のハリー・キャラハン刑事の物語で、1作目の『ダーティハリー』(Dirty Harry, 1971)のヒットを受けて5作目まで作られました。その4作目の冒頭の犯罪場面で、タイトルの "Make my day!" という台詞が流れ、それが流行語になりました(Wikipedia でも同作品によって流行語になったことが解説されています)。

 

Harry: Go ahead.  Make my day! 

 

この台詞は、ハリーと犯人達の銃撃戦の後で傷ついた犯人の一人が女性を人質に取って頭に拳銃を突きつけているところにハリーが近づいて行き、彼がその犯人の顔に銃を突きつけたところで発せられます。これは「ちょっとでも動いて見ろ。この銃がお前の頭を吹き飛ばすぞ」ということを無言で語っているシーンです。件の台詞はその状況の中で「さあ、動いてみろ。オレを幸せにしてくれ」、つまり「オレに銃を撃たせて幸せな気分にさせてみろ」と相手に迫っているわけです。DVDでこの場面の日本語字幕は「さあ、撃たせろ」と出ていますが、他の訳もあるようです。

 

この場面でこの台詞が生きてくるのは、実は1作目の『ダーティハリー』(Dirty Harry, 1971)までさかのぼります。同作品では、冒頭の犯罪シーンとクライマックスの犯人を追い詰める2つのシーンで『ダーティハリー4』と同じような場面があります。ハリーが持っているスミス&ウエッソン(Smith & Wesson)社製のM29という拳銃は、ものすごい威力の弾丸(通称「44マグナム」)を使いますが、リボルバー(回転銃)であるため弾丸を6発しか入れられません。銃撃戦になると途中で補給しないかぎりすぐに弾切れになるわけです。それを知っていることが前提となって、犯人に銃を突きつけたところで「もしかしてお前はオレの拳銃に何発弾が残っているか考えているんだろう?実はオレにもそれはわからないんだ。試してみるか?」と異なった場面で犯人に同じ事を言うのです。それぞれの場面の結果がどうであったかは映画を未見の人のために内緒にしますが、その1作目の場面があったからこそ4作目の件の台詞が生きてくるというわけです。

 

話を元に戻します。みなさん自身が make my day と言う表現を使うことはあまりないかもしれませんが、いろいろなドラマや映画などで『ダーディハリー』で有名になった台詞としてパロディーで使われる可能性が高いので、ぜひ注目していてください。

 

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