「やった」気になっていてはいけない

今回の話は、これまでお話ししてきた学習法に関することの多くの項目のまとめのようなことかもしれません。

 

長年の生徒との学習相談の1つに、「勉強はけっこうやっているのに、思ったほどの成果があがらない。どうしたらいいか?」ということがあります。そのような生徒に話を聞いてみると、確かに勉強時間はそこそこ確保しており、試験範囲の課題となっている問題集等もしっかりこなしてます。それなのに、なかなか試験の点数にそれが反映しない…。これでは努力した甲斐がなくて、次の学習への意欲もわかなくなってきてしまいます。

 

ただ、このような相談をしてくる生徒には、ある共通することがあります。それは、勉強の「量」はそこそこあるが、「質」が足りないということです。では、ここで言う勉強の「質」とは何でしょうか?

 

その結論をお話しする前に、上記のような生徒の多くに共通する勉強スタイルを見ていきましょう。彼ら・彼女らと話をしているうちに、次のようなことが見えてきています。

 

・教科書のCDやラジオの英語講座は聴いている

・問題集はまちがったところをもう1回やっている

・単語は単語カードを何度もやっている

・教科書本文は何度もノートに書いている

・教科書の音読を何度もしている

 

「えっ? これらのどこが悪いの?」と思った人も多いでしょう。いやいや、筆者もやっていること自体を問題にしているわけではありません。いずれも大いにやってもらいたいと思うものばかりです。では、なぜ上記の勉強スタイルを問題にしているのか? それは各項目の中身、つまり「質」にあります。その「質」を考えずにただ「量」をこなす…つまり「やった」気になっている、ということを問題にしたいのです。

 

そこで、それぞれの勉強項目について、「質」を上げてもらう方法についてお話ししましょう。スマホで読んでいる方には少々量が多くなりますが、本当に充実した勉強をしたいと思う人は最後までお付き合いください。

 

① 教科書のCDやラジオの英語講座は聴いている

ここで問題にしたいことは、これらの音声をどのように利用しているかです。「やった」気になっている最大の(最弱の)勉強法は、これらを単に聞き流して聴いた気になって満足している場合です。一方、この項目で「質」の高い学習をしている生徒は、以下のようなことをしています(順不同)。

 

・教科書を見ずに、モデルを聴いただけで意味がわかるか確認している

・教科書を見ずに、モデルを聴いた後に意味を考えながら英文を言っている

・教科書を見ながら、モデルの読み方で気づいたところ(個々の発音、抑揚、音のつながり、息継ぎの場所、等)を教科書にメモしている

・聴いていて気づいたことや疑問に思ったことをメモして、あとで自分で調べている

 

どうでしょうか? みなさんはこのようなことをしていますか? 単に教科書のCDやラジオの英語講座を聞き流して、それで一定時間を「勉強した」気になって過ごしている人は、まったく聴いていない人よりはいいとしても、みなさんが目指しているような成果はあげられないのです。

 

② 問題集はまちがったところをもう1回やっている

ここで問題にしたいことは、「まちがったところ」だけもう1回やれば理解できたと思ってしまっていることです。実は、ここには大きな落とし穴があります。多くのみなさんは、問題集をやるときに1回やってそれを終わりにするか、ここで紹介されているまちがったところをもう1回やって終わりにしているでしょう。でも、これだけでは理解できているとは限らないのです。

 

それはなぜかと言うと、問題集を1回やって採点したときに、本当に自信を持って正解できたものがどのくらいあったかということなのです。「よくわからないけど、適当に選んでみたら合っていた」というものや「『きっとこうかな』と思って答えたら、合っていて安心した」というものがありませんか? つまり正解したものの中には、本当は理解できていなかったものも含まれているのです。ですから、これを放っておくとそこに穴があくというわけです。

 

この状況を改善するには、「まちがったところをもう1回やる」ではなく、「すべての問題を自信をもって答えられるまでやる」という勉強をしなければなりません。つまり、今やっている問題集の問題ならすべて自信をもって答えられると思える状態になって初めて「問題集の問題を理解できた」と言えるのです。

 

③ 単語は単語カードを何度もやっている

ここで問題にしたいことは、単語カードに何が書かれているかということです。もしその単語カードが、英単語とその和訳の一対一だけで両面が構成されているもであるとしたら、それはもう単語に関する最低限の記憶(瞬時に和→英にできるか)を強化しているだけで、その単語をきちんと使えるレベルのものにまですることはできません。

 

単語はあくまでも文の中でその役目を果たすものであり、同じ単語でも文によって用法(名詞か動詞か等)がちがったり、同じ品詞でも意味がちがったりします。したがって、単語カードを使って語彙力をつけたいと思うのであれば、ぜひ例文と共に覚えてください。それには、単語カードにもその単語を含む例文が書かれている市販のものを購入するか、自分で作成したものを使ってみてください後者であれば、作っただけでけっこうな学習(記憶の強化)になると思います。

 

④ 教科書本文は何度もノートに書いている

ここで問題にしたいことは、この作業をどのように行っているかということです。もし教科書を横に置いて、それを見ながら書いているのだとしたら、それはほとんど時間の無駄です。もちろん、「書く」という行為だけでも効果がないわけではありませんが、「質」の高い勉強をしている人は一工夫しています。

 

その方法とは、「英文を見ないで書く」です。この方法の効果は、単に英文を書く練習をするというだけでなく、そこに「意味を考えながら書く」、「文法を意識しながら書く」、ということが加わりますから、その英文に対する理解の強化と個々の単語だけでなく英文全体の視覚イメージの強化にもつながるということです。つまり、「勉強」が「学習」に変化する率が高いということです。

 

具体的な手順としては、①英文を読む→②英文を言う→③英文を書く→④正しく書けたか確認する という方法でやってみてください。①は「教科書CDで英文を聴く」という方法にしてもいいと思います。また、④は丁寧にやってください。これがけっこういい加減な生徒が多く、提出された家庭学習ノートを見ると、まちがって書いたものを何度も練習している生徒が少なくありません。

 

⑤ 教科書の音読を何度もしている

ここで問題にしたいことは、この活動にどれだけ気持ちを込めて行っているかということです。ここでいう「気持ち」とは、登場人物の気持ちになってということ(だけ)ではありません。つまり、音読を工夫して行っているかということです。

 

音読がいかに大切かということは、「3. 音読は『話すこと』の基礎を支える大切な活動である」で述べているので、そちらを参照してください。その上で、音読をする際にぜひ力を入れて練習してほしい点は以下のとおりです。

 

・モデルの発音、リズム、抑揚をできるだけ真似る

・本文の場面や登場人物の心情を自分なりに理解し、それを表現できるように音読する

 ※モデルの表現と異なっていてもかまいません。

・自分の音読を録音し、それを聴いて修正を図る

 

「たかが音読」と思ってはいけません。音読の質を自分の意志で上げると、それが耳をとおして脳に焼き付き、知らず知らずのうちに教科書の英文が頭に残ります。つまり、ただ何も意識せずに音読したときよよりも学習したことが定着しやすくなるのです。

 

<番外編> 音楽を聴きながらやっている

みなさんの中には、「(気が紛れて良いから)勉強するときはいつも音楽を聴いている」という人もいるかもしれません。人によって様々な勉強スタイルがあるので、一概にこれを否定することができないのですが、「質」の高い勉強を行うという視点から言うと、あまりお勧めできません。

 

それは、すでにここまで推奨してきた方法を読み返してもらえばわかることですが、そのほとんどが自分の集中力を高めることを前提としているからです。その時に、気を紛らわすための音楽がバックにあると、それに気を取られて身につくものが身につかなくなります。

 

さらに言えば、音楽(昔は多くの人がラジオ)を聴きながら勉強するというのは、一定時間勉強を「やった」気にさせているだけで、その間に勉強したことはあまり身についていないということに気がついていない、あるいは気がついていても、「勉強しろ」と口うるさい家族へのポーズにはなるというだろうという意識を持たせるだけのものなのです。

 

ちなみに、筆者もときどき音楽(さらには映画)を流しながら仕事をするときがありますが、それはもう「とにかくこれは~までに終わらせなければ…」というような「作業」のときだけです。今この記事を書いている間は、自分の伝えたいことをどう効率よくしっかりと伝えられるかということに傾注していますから、音楽どころか周囲の雑音さえ耳に入らないくらい(さらに時間も忘れてしまうくらい)集中しています。

 

【終わりに】

いかがだったでしょうか? 自分が欲している成果を本気であげたいのであれば、「やった」気になっている学習はもうやめましょう。勉強は自分や他の人への「やっているポーズ」のためにやるものではありません。自分のために勉強するには、「質」を意識して取り組んでもらいたいと思います。 

 

次回は、試験前に少なからぬ人が行う「あの勉強法」について議論します。お楽しみに!

 

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