『~ではないと思う』は I don't think that ~. が普通?

0. イントロダクション

読者の多くのみなさんは次のように習ったことがあると思います。

 

「『~だと思う』は I think that ~. と言うが、『~ではないと思う』は I think that ~ not …. ではなく I don't think that ~. とするのが普通である。」

 

上記の説明を具体的な例文で見てみましょう。

 

① 私は彼は悪人だと思う。

→ I think that he is a bad man.

② 私は彼は悪人ではないと思う。

→ I think that he is not a bad man.

 

これに対して、②は次の③のように言うのが普通であるというのが件の主張です。

 

③ I don't think that he is a bad man.

 

すなわち、英語では「~ではないと思う」は「~だと思わない」と表すのが普通であるということです。英語教師である筆者も以前はこの説明を信じて自分の生徒にもそう説明していたのですが、最近は少しちがう説明をしています。それをお話ししましょう。

 

1. "think" という動詞の意味を理解する

最初に結論を述べておくと、次のような説明はまちがいです

 

  「I don't think that ~. とは言うが、I think that ~not…. とは言わない。」

 

つまり、必ずしも常に「~ではないと思う」を I don't think that ~. と言うわけではないということです。しかし、一般的には昔から(そして現校の教科書にも)「『~ではないと思う』は I don't think that ~. と言うのが普通である」と言われています。では、どうして太字のような説明の方が正しいと言えるのでしょうか。

 

それは、think という動詞の持っている本来の意味から導き出される答えだからです。私たち日本人は think の意味を「~だと思う/考える」と訳します。したがって、think の意味は日本語のそのとおりの意味だと多くの人が思っています。しかし、think にはもう一歩踏み込んだ意味があります。それは…

 

「①~についてよく考え、②…だという結論に達し、③それを表明する」

 

これは新学習指導要領でいうところの「①思考、②判断、③表現」の3つを含んだ語ですね(笑)。つまり、日本人が気軽に「~だと思う」という意味で使う語ではなく、その結論に至るまでによく考えた上でそれを相手に伝えているのだといことを表す動詞なのです。例えば、相手の発言に対して「私もそう思う」の I think so. は I'm sure you are right. と言っているのと同じなのです。気軽に「私もそう思う」という意味で使うなら I guess so. の方がいいでしょう。

 

これがわかれば、"I don't think that ~." がどういう意味であるかもわかるでしょう。「私は~であると think しない」ですから、「~についてよく考えて意見を言っているわけではない」という意味になるわけです。 

 

2. I don't think that ~. と I think that ~not…. のちがいを考えてみる

上記の think と don't think の意味を押さえた上で例文②と③の意味のちがいを考えて見ましょう。

 

② I think that he is not a bad man.

→(よく考えた結果)彼は悪い人ではないと思う。

③ I don't think he is a bad man.

→(咄嗟に考えて)彼は悪い人だとは思えない。

 

つまり、②のように言えば、「私は自信を持って彼が悪人ではないと思う」という強い意志を伝えることになります。例えば、自分が信頼している人が悪人だと疑われたときに反対意見として述べるようなときの発言でしょう。これに対して③のように言えば、「私は彼が悪人だとは思えないなあ」くらいのあいまいな気持ちを伝えることになるのです。例えば、あまりよく知らない人が悪人だと疑われたときに参考意見として自分の印象を述べるときの発言でしょう。

 

以上のことから、1. の冒頭で述べた「次のような説明はまちがいです」ということがおわかりだと思います。これを正しい説明に変えると以下のように言えるでしょう。

 

「I don't think that ~. と I think that ~not…. では伝えようとする内容にちがいがある。」

 

ですから、誰かの発言を聞いたときにどちらの表現で言ったかで相手の「~」の部分に対する確信度がわかりますし、自分で言う場合もその確信度によって上記の2つを使い分ける必要があります。

 

3. 教科書の例文で2つの表現のちがいを確認してみる

筆者が今回のことを考えるきっかけになった令和3年度版教科書 One World(教育出版)の2年生の Lesson 1 に出てくる表現を見てみましょう。

 

Aya: I hope many blind people will be able to have guide dogs.

Bob: I hope so, too.  But I don't think many people know about this problem.

 

この会話は、「日本には盲導犬を必要としている人が約7,000人いるが。実際には約1,000頭しかいない。それは、盲導犬を育てるには時間と労力が必要だからである」ということを Aya と Bob が話している場面が前提となっています。そして Aya が「多くの目の不自由な人が盲導犬を持てるようになることを願っている」と言ったことに対して、Bob が太字のような発言をしています。

 

Bob の言いたいことは、「ぼくもそう願っているよ。でも、多くの人がこの問題について知っているとは思えないなあ」という感じです。つまり、Bob は(なかなか改善されない現状からすると)この問題が広く知られていないのではないかという気持ちを伝えているのです。もし、これを I think many people don't know about this problem. とすると、「ぼくは多くの人がこの問題について知らないと(自信を持って)考えている」となり、かなりこの問題に入れ込んでいて、いろいろな資料などを読んだりして、この問題が多くの人々に共有されていないことを主張している感じに聞こえます。 

 

4. 自分で2つの表現を使い分けてみる

では、最後にこの2つの表現を自分で使い分けてもらうための問題を出しましょう。ここまでの説明が理解できていれば、次の問題は簡単だと思います。

 

<問>「私は数学は難しくないと思う」を次の2つのニュアンスで言いなさい。

ア)数学は難しくないけどなあ。

イ)数学なんて難しくないよ。

 

<答>

ア)I don't think (that) math is difficult.

イ)I think (that) math is not difficult.

 

同じ「数学は難しくない」という気持ちを伝える文でも、イ)のように言うと少し威張っているように聞こえますね(笑)。数学が苦手な人が聞いたら気を悪くするかもしれないので気をつけたいですね。

 

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