最後が前置詞で終わる変な文はいったい何?

0. イントロダクション

生徒が理解したり表現したりするのに難しいと感じる文の1つに次のような文があります。

 

① Who did you go to Osaka with?

 

前置詞があると、大抵はその後ろに何かしらの名詞(句)があるのに、それが無くて前置詞で終わっているので、とても変な感じがするからでしょう。

 

この質問を授業中に生徒にすると、一瞬「ん?」と理解に迷っているような沈黙があります。ただ、文頭に Who があることや話の流れなどから、多くの生徒が「誰と一緒に行ったの?」と聞かれたのだと判断して答えてくれます。しかし、生徒自身がこの表現をスムーズに使えることはあまりありません。同様のことを尋ねたいけれども、何と言っていいかわからず、変な表現になってしまうこともしばしばです。

 

さらに、以前使っていた One World(教育出版)という教科書の3年生に次のような文が出てきたときは、生徒のほとんどが戸惑いました。

 

② My grandmother wanted something to remember him by.

(私の祖母は彼を覚えておくための何かが欲しかったのです。)

 

予想していたとおり、「先生、最後の by って何ですか?」という質問がどこのクラスでも出されました。それまでの不定詞の形容詞用法にも副詞用法にも前置詞が最後についている表現などなかったからです。しかも、一生懸命易しく説明したつもりなのに、それでも多くの生徒の頭の上に「?」が見えました。

 

これはいったいどういうことなのでしょうか? 今回はその疑問を解決します。ただ、丁寧に説明するので、少し長くなります。辛抱強く読んでください。

 

1. 基本的な考え方

まず、前置詞は必ずその後ろに名詞があります。だから、くことば()と呼ばれるわけですね。ということは、一見すると後ろに何もない①や②に文においても、それぞれの前置詞の後ろに何かがあったはずです。それを分析してみましょう。

 

①の文では、この疑問文ができあがるまでの過程を、この疑問文の答えからたどってみます。

 

(答え)             I went to Osaka with  my  family.

(YN質問)         Did you go to Osaka with your family?

(Wh質問)Who did you go to Osaka with?

 

そうです。①の疑問文の Who にあたる内容(your family)が with の後ろにあり、それが不明であることを問う疑問文を作るために文頭に Who としてやってきたので、前置詞 with はそのまま残っているのです。つまり、もともと前置詞の後ろにあるべき語がどこかに移動してしまった(というか、前置詞の果たす役割の対象となる語が別のところにある)ので、前置詞がその場所に残っているというわけです。

 

2. 後置修飾の最後に前置詞がある表現

では、②のような後置修飾で前置詞が文末にある場合を見てみましょう。もちろんこれも、「1. 基本的な考え方」に示したことで説明できます。

 

(1) 不定詞の形容詞用法の場合

話を簡単にするために、まずは次のような2つの文があったとします。

 

① I want something to eat.

② I want something to eat with

 

上記のような場合、①は「私は食べるための何かがほしい」という意味で、中2で不定詞の形容詞用法を学ぶときに教科書に必ず出てくる表現です。②はこれに with が付いただけなのですが、それだけで「何だ、これは?」と感じます。①も②も前半の3語で「私は something がほしい」という文が成り立つのですが、この something がどのようなものであるかが、後半の修飾部に with があるかないかで異なります。something が何であるかをわかりやすくするために、2つの文を少し動かしてみます。

 

①' I want to eat something.  

②' I want to eat with something

 

どうでしょうか。こうすると、①'の something は「食べるもの」を指し、②'の something は「食べる道具」を表すことがわかると思います(with somethingで「何かを使って」となるから)。したがって、元の文の something も、①では食べ物を表し、②では食べる道具(はし、スプーンなど)を表すわけです。それは、①では to eat が something を修飾し(「食べるための何か」)、②では to eat with が something を修飾している(「食べるのに使う何か」)からです。

 

そこで、問題となった1-②の文も次のようにいじっています。

 

1-②' My grandmother wanted to remember him by something.

 

この位置に something を置くと、「何かによって彼のことを覚えておきたかった」ということになるので、この something は思い出の品(写真や遺品など)を表すことがわかると思います。つまり、この文では to remember him by が something を修飾していることになります。

 

◇練習問題 

では、次の文では( )内の後置修飾の表現をどうしたらいいでしょうか?

 

① I have something(手紙を書くための~).

② I want a friend(一緒に話せる~).

③ Tokyo is a good place(…に住むための~)

 

答えは、①は to write a letter with で、頭に思い浮かべるのは筆記用具です。②は to talk with ですね。「話しかける」であれば to talk to です。③は to live in です。正解できたら、ここの内容を理解できたということになります。

 

ただし、③のような文では in は省略されてしまうことが多いです。この場合は、「~するための」という形容詞用法だとするのか、「~するために」という副詞用法だとするのかが文法学者でも意見が分かれています。同様のことは、筆者が好きな『スタートレック』に登場するクリンゴン人がよく言う "Today is a good day to die."(今日は死ぬには良い日だ)という台詞にも表れていいます。これも本来は to die on であるべきところですが、on は落ちてしまっています。

 

(2) 接触節の場合

後置修飾の部分が節(接触節)である場合も同様です。つまり、修飾される語が接触節の中ではどの部分にあたるのかということで前置詞のある/なしが変わります。

 

The country Kumi wants to go to is Mongolia.

② These are the Brazilians Ken played soccer with.

③ I stood on the steps Dr King made a great speech from.

 

もしかしたら、こちらの方がわかりやすいかもしれません。各文の被修飾語(斜体字の部分)を接触節の後ろに持って行ってみましょう。

 

①' Kumi wants to go to the country

②' Ken played soccer with the Brazilians 

③' Dr King made a great speech from the steps (of the Lincoln Memorial)

 

つまり、いずれの被修飾語も各節の前置詞の目的語になっています(前置詞句を構成する)。その部分が前に出てきたと考えれば、各節の前置詞が残っている(というか、あるべき場所にある)ことがわかると思います。

 

◇練習問題 

次の文では( )内の後置修飾の表現をどうしたらいいでしょうか?  ※答えは下に

 

① I know the place(ミキがやって来た~).

② Look at the boy(クミが話しかけている~).

③ Is this the watch(あなたが探していた~)?

 

答えは、①は Miki came from、②は Kumi is talking to、③は you were looking for となります。それぞれ、①の the place は from の、②の the boy は to の、③の the watch は for の目的語になっていることが理解できたでしょうか。

 

今回はとても難しい内容なので、一度読んで理解できない場合は何度も読み直してみてください。筆者の生徒には上記の内容が書かれたハンドアウトを読ませて練習問題をやってもらいましたが、それでも「よくわからない」と言ってきた生徒に再度ゆっくり説明したところ(同じことを繰り返しただけですが…)、「な~るほど!」と理解して帰りました。きっとみなさんもそう思ってくれるでしょう。

 

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