Yes. / No.  と「はい」「いいえ」のちがい

【質問】

映画などを見ていると、聞こえてくる台詞が Yes. なのに日本語の字幕が「いいえ」になっていることがあります。これはどういうことでしょうか?

 

【回答】

確かに、映画やドラマなどを見ていると、実際の台詞では Yes とか Of course. と言っていたり肯定の内容で答えているのに、字幕では「いいえ」となっていることがよくあります。その逆に、否定の表現や内容なのに、字幕では「はい」となっていることもあります。これに対して「?」と思った人も少なくないでしょう。今回はこの問題を解決しましょう。

 

このような場合は、主に次の2つのことが考えられます。

 

・動詞の意味によるもの

・Yes. / No. と「はい」「いいえ」のちがいによるもの

 

そこで、今回はこの2つの場合に分けて話を進めます。

 

(1) 動詞の意味によるもの

こちらの典型的な例は、次のような場合です。

 

A: Would you mind if I smoke?

B: Yes.

 

上記の会話の字幕はたいてい次のようになっています。

 

A: だばこを吸ってもいいですか。

B: ダメです。

 

つまり、Bの答えが英語と日本語で全く逆になっているのです。

 

実はこれは、質問文の動詞 mind の意味によるものです。mind には「〜を気にする」という意味があります。したがって、Aの質問は「もし私がタバコを吸ったら、あなたは気にしますか?」という意味になります。そうすると、Yes(, I would). は「はい(、気にします)。」となるので、字幕では否定のことばになるわけです。

 

字幕はできるだけ字数を少なくして(映画字幕の大家・戸田奈津子氏の著書『字幕の中に人生』によれば、1秒間で4文字が限度)、要点を伝えなげればならないため、英語の直訳は避けられる傾向があります。そのために今回のような逆転には目をつぶるのです。

 

(2) Yes. / No. と「はい」「いいえ」のちがいによるもの

こちらの典型的な例は、次のような会話です。

 

A: Don't you want to do that?

B: No.

 

上記の字幕(訳)はたいてい次のようです。

 

A: それをやりたくないのですか?

B: はい。

 

こちらも英語と日本語がまったく逆になっています。これは今回のタイトルにもなっている、英語の Yes. / No. と日本語の「はい」「いいえ」のちがいからくるものです。「えっ? "yes" =「はい」、"no" =「いいえ」じゃないんすか?」という声が聞こえてきそうですね。確かに、教科書に載っているような文ではそのとおりなのですが、実際の会話では上記のようなくいちがいがしょっちゅう起こります。

 

その理由は、英語と日本語では Yes. / No. と「はい」「いいえ」の果たす役割がちがうからです。そのちがいは以下のとおりです。

 

・日本語は、相手の質問に“同意する”場合に「はい」“同意しない”場合に「いいえ」と言う。

・英語は、相手の質問に関わらず、答えが“肯定の内容”であれば "Yes."“否定の内容”であれば "No."と言う。

 

つまり、上記の例文では、「それをしたくないのか?」という質問に対して、日本語では「あなたの言うとおり『したくない』」から「はい」と答えますが、英語では答えが「したくない」という否定の内容なので"No."と答えるというわけです。このちがいは、質問の仕方が否定疑問文や否定文から始まる付加疑問文のときによく起こります

 

上記の例文のような場合でも、相手の質問に対して英語と日本語では真逆の言い方になるなので、答えを日本語で考えてそれをそのまま英語にしてしまうと、自分の意志と反対のことを答えてしまいます。それほど重要な内容でなければ問題はありませんが、次のような場面で答え方をまちがえると、あなたの身には大変なことが起こるでしょう。

 

<場面>あなたはロサンゼルスにいます。目の前で人が銃で撃たれて倒れました。それに驚いて立ち尽くしていると、警官が走り寄って来てあなたに尋ねます。

 

Police Officer: You didn't kill him, did you?

 

それをあなたは頭の中で「お前が殺したんじゃないな?」と訳しました。そして、「そのとおりだ」と相手に伝えるべく次のように警官に返事をします。

 

You: Yes.

 

はたして、あなたはどうなるでしょうか? そうですね。きっと逮捕されてしまうでしょう。

それは、Yes. は Yes, I did. つまり、Yes, I killed him. という意味だからです。ここでは相手の質問の仕方にかかわらず、No. つまり、No, I didn't (kill him). と答えなければなりません。

 

実は、直上のような重大な局面ではありませんでしたが、筆者もアメリカの大学に留学中に何度かこのようなやりとりをしてしまった記憶があります。例えば、今でもはっきり覚えているやりとりは…

 

Nory:(電話に出て)Hello?

John: Hi, I'm John.  Is Marilyn there?

Nory: Ah..., I'm sorry she is... out now.

John: So, she isn't at home.

Nory: Yes.

John: What?  Is she there or not?

Nory: Ah..., she is not here.

John: Oh, OK....

 

この会話では、4行目で John が「彼女は家にいないんだな」と言ったことに対して、日本語で「はい」と考えて Yes. と答えたことで、3行目の私の答え(「留守にしている」)と逆のことを言ってしまったことになり、相手を混乱させてしまったというわけです。

 

たいていは自分で言った後に自分で言い間違いに気づいて言い直したりしましたが、そういう時は相手にけげんな顔をされました。言い直す前と後では答えが逆になるわけですから、それも仕方がないですね。もちろん、そうした経験をしたことで、その後は英語の発想で返事をすることができるようになりました。ただ、もしかしたら、自分ではミスに気づかなくて、相手に反対のことを伝えてしまったことがあったかもしれませんが…。

 

みなさんもぜひ気をつけてください。

 

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