sit の ing形はなぜ sitting なのか?

「それは簡単ですよ。短母音+子音字で終わっている場合は、その子音字を2つ重ねてingをつけるんですよ」という答えが返ってきそうですね。でも、その答えは今回の質問の答えにはなっていません。それは「~の場合は」と答えているだけで、「なぜ」かは答えていないからです。なぜ、短母音+子音字で終わっている場合は、その子音字を2つ重ねるのでしょうか? その答えが今回の話です。

 

今回の話の答えに入る前に、できれば次の2つを読み返してみてください。実は、この2つの話の中に大きなヒントがあるからです。後でまた取り上げます。

2. make はなぜ「メイク」と読むのか?

5. make の ing形はなぜ making なのか?

 

ここでは別の話から入ります。筆者が中学生の時、上記の「短母音+子音字の場合は…」という説明に1つだけ疑問点がありました。それは…

 

「sit(スィットゥ)、hop(ホップ)、cut(カットゥ)などが sitting, hopping, cutting になるのはわかる。でも run(ラン)がなぜ running になるのか?」

 

ということでした。それは、当時は(というか教員になるまで)「短母音」を「ッ」(小さなツ)になるような母音だと思っていたからです。だから、「ラン」ではない run がなぜ running になるのかがわかりませんでした。私のように“疑問”として持っていないまでも、意識していなかった人は、run の ing形をテストで runing と書いて「×」にされた人もいるでしょう。今回の話はその点も解決します。

 

sit の ing形を考える場合は、make の ing形を考えた場合と同じところからスタートしましょう。つまり、「なぜ、siting ではダメなのか?」ということです。

sit + ing = siting(×)

 

一見するとこれでもよさそうですが、できあがった siting は、英語話者に「スィッティング」と読んでもらえないのです。その理由は、「2. make はなぜ…」と「5. make の ing形は…」を合わせて読んでもらうとわかります。

 

話を進めましょう。siting は making と同じように「子音字+母音字+子音字+ing」というつづりですね。ということは、making を make(メイク)の ing形だとするのなら、siting は何の ing形になりますか?

 

そうです。siting は site(サイトゥ)の ing形、つまり「サイティング」だと思われてしまうのです。これでは困りますね。何としても「スィッティング」と読ませたい。そのためにはどうしたらいいか? これを解決するために出てきたつづりのアイデアが「最後の子音字を2つ重ねたら、直前の母音字は短母音(音読み)で発音する」ということなのです。そして、この同じ子音字が2つあるというのは、その直後にある「マジックe」(その前にある母音字を「名前読み」にさせる力がある)の効力をブロックする役目があるという発音とつづりのルールを決めたのです。

 

ここまでくればもうおわかりですね。先述の hop や cut も、もし hoping や cuting と書いたら、hope や cute の ing形となり、「ホウピング」や「キューティング」と読まれてしまうのです(ただし、cuting という語は存在しません)。では、run の ing形を runing と書いたら、どうでしょう?

 

そうです。それは rune(ルーン)の ing形となるので、「ルーニング」と読まれてしまうのです(ただし、runingという語は存在しません)。筆者の昔の疑問もこれで解けました。みなさんはどうですか?

 

なお、ここまでくると、apple をなぜ「(ェ)アプル」と読むのかもわかります。逆に言えば、「(ェ)アプル」という発音の語をなぜ apple とつづるのかということでもあります。

 

話題にしている子音字の重なり、pp について見てみましょう。もしこれが1つしかない、つまり aple とつづったら、何と読むでしょうか?

 

a なら「(ェ)ア」

ap なら「(ェ)アプ」

apl なら「(ェ)アプル」

aple なら「エイプル」(マジックeの効力出現)

apple なら「(ェ)アプル」(マジックeの効力ブロック)

 

そうです。もしかしたら、中学生の時に無理矢理「アププレ」などと覚えた apple という単語も、実は発音とつづりの関係から見ると論理的なつづりであったということがおわかりでしょうか。

 

では、最後にここまでの「発音とつづりの関係」の話の総決算です。中学生で習う単語のつづりとしては難しいと思われている次の単語も、実は発音とつづりの関係からはごく当たり前の論理的なつづりなのです。それを説明してみてください。正解は書きませんが、みなさん自身が突き詰めて考えていけば出てくるでしょう。

 

(問)umbrella(アンブレラ)

※ヒント…2つのllに注目。 

 

(11/12/2018)

 

上記(問)の答えを知りたい方は、「9. umbrella のつづりは覚える必要はない」をご覧ください。(12/19/2020)

 

元に戻る 

 

英語教師の方々へ

今回の話はいかがでしたか? 先生によっては、「そんなことは当たり前だ」と思った方もいらっしゃるでしょう。しかし、筆者が研修会や講習会で確認したところでは、中・高の英語教師の多くの方が今回の話を「これまであまり意識したことがなかった」とおっしゃり、「目から鱗が落ちた!」「中学生の時に習っておきたかった!」ともおっしゃってくれます。逆に言えば、多くの方がこんな簡単なことも理解できていないまま、高校や大学で難しい表現や文法を必死になって勉強し、英語教師になっているということです。

 

これを授業でどう扱うかは、ご自身の生徒の実態とそこまでの発音とつづりの関係の指導状況によって異なりますので、慎重に検討してください。ただ、上手に授業で扱うことができれば、生徒の先生に対する信頼度が上がるはずです。それは、中学生も高校生も(そして大学生も)、発音とつづりの関係の話には「目から鱗が落ちる」思いをするからです。