仮定法とは何?

0. イントロダクション

仮定法はこれまでは高校で初めて習う文法でした。ところが、令和3年度から施行された新学習指導要領では、中学校でもそのうちの「基本的なもの」を扱うことになっています。したがって、中学生のみなさんも仮定法を理解しなければいけません。そこで、ここではそれをみなさんが簡単に理解できるようにしたいと思います。読者の方が高校生以上であれば、理解を深めることにつながれば幸いです。

 

ただ、最初にお断りをしておきたいことがあります。実は、筆者は高校生時代に仮定法のことをよく理解していませんでした。それを悟ったのは、大学1年生のときに受けた英会話の授業でした。後に自分がアメリカへ留学した際にもお世話になったそのアメリカ人講師の授業で、目から鱗が落ちるがごとく仮定法を理解したのです。つまり、そのときに初めて「実は自分は仮定法のことをよく理解していなかったのだ」ということを知ったのです。

 

「そんなヤツがこのホームページで偉そうに文法のことを語っているのか!」そう思った方はどうぞこのページを離れていただいて結構です。ただ、自分としては、そうした自分の「わからなかったことがわかるようになった」という経験こそが教師としての強みだとも思っています。つまり、わからなかった理由やそれがわかるようになった過程を知っていることで、それらを自分が教える生徒への指導に生かせるということです。

 

今回もその経験を踏まえて「仮定法」について述べていきます。なお、仮定法は詳しく説明しだすとかなりの紙幅をとることになるので、最も核となる部分だけに説明を絞ることにします(それでも相当な量になりますが…)。

 

1. 「仮定法」とは何か?

仮定法というと、「何かを仮定するのだろう」ということから、「もし~なら、…だろう」という文のことだとは想像がつきますね。そうすると、現在中学生のみなさんなら、「えっ? それだったら中学校でもやってるじゃん」と思うかもしれません。それは、次のような文を中2で習うからです。

 

If it is fine tomorrow, I will play soccer with my friends.

(もし明日晴れたら、友達とサッカーをしよう)

 

そうです。接続詞 if を使った「もし~なら…」というあの文ですね。でも、これは仮定法の文ではありません。仮定法の文とは、次の2つのような文を指します。

 

If I were a bird, I would fly over to you.

(もし私が鳥だったら、あなたのもとに飛んでいくのに)

If I had studied more, I could have passed the test.

(もしもっと勉強していたら、テストに合格できただろうに)

 

①と②・③の文のちがいは何でしょうか? 「if の文や後半の文の時制がちがう」というところにまずは気づくと思いますが、それだけでは仮定法を理解したことにはなりません。

 

もっとも大切なことは、接続詞 if の文(「if節」とか「条件節」と呼ばれます)の中身が、「実現可能なことかどうか」ということであり、それが仮定法であるかどうかの分かれ道です。つまり、実現可能なことであれば仮定法の文ではなく、実現不可能なことであれば仮定法の文であるということになります。

 

例えば、①の文の「明日晴れたら」ということは、明日の天気のことですから晴れか曇りか雨かわかりません。つまり実現するかもしれないことです。ですから、これは仮定法の文ではありません。一方、②の「私が鳥だったら」ということは実現不可能なことですし、③の「もっと勉強していたら」ということもすでに過ぎてしまったことなのでいまさら実現不可能です。ですから、②と③は仮定法の文だということになります。

 

以上のように、同じような「もし~なら」と“仮定する”状況の中にも、実現する可能性があるものとそうでないものがあることがわかったと思います。そしてそれらは、いずれも事実とは異なる話者の気持ちを表しているとも言えます。そこで、これらのことをまとめると、「実現する可能性がないことや事実とは異なることを仮定する気持ちを表す文を仮定法の文と言う」となるでしょう。

 

また、If ...,  の文が表に表れていない文にも仮定法の文があります。例えば、次のような文です。

 

④ I wish I were a bird.

(私が鳥だったらなあ)

⑤ I should have studied harder.

 (もっと一生懸命勉強しておけばよかったなあ)

 

④の文は②と同様の、⑤の文は③と同様の状況を表しており、If ..., の文が隠れている仮定法の文と考えられます。

 

2.仮定法の2つの状況

上記の②と③を比べると、if節の中も後半の文の中もそれぞれ時制が異なっていることに気づきます。実は、わざとその部分を斜体字にしてあったので、その時点で気づいた人もいるでしょう。日本語訳を参考にして、2つの文の状況をもう一度比べてみると、両者にはちがいがあることがわかります。それは何でしょうか? 

 

そうですね。②は現在のことを言っていますが、③は過去のことを言っています。つまり、②は「もし今私があなただったら…」ということを表し、③は「あのときにもっと勉強していたら…」ということを表しています。そして、②のような文を「仮定法過去」、③のような文を「仮定法過去完了」と呼びます。なお、文法の解説書などでは、以上の2つの他に「仮定法現在」、「仮定法未来」を説明しているものもありますが、ここではそれらは割愛します。

 

「えっ? 現在のことを言っているのに『仮定法過去』?、過去のことを言っているのに『仮定法過去完了』? もう何が何だかわからない!」 そうですね。そう思った人もいると思います。かくいう筆者もかつてはそのような一人でした。この文法用語と実際の状況のずれも仮定法の理解を難しくする理由の1つです。

 

なぜこのようなずれが起こるかというと、「現在」のことを1つ前の「過去」に、「過去」のことを1つ前の「過去完了」にずらすことで、事実とは異なる、あるいは実現不可能な状況であることを表そうとしているからです。面白いことに、日本語でも現在の事実と異なることを「もし私が鳥だったら…」と過去形を使って表すことに英語との共通点を見いだすことができます。

 

では、改めて2つの異なった仮定法の文を詳しく見ていきましょう。

 

(1) 仮定法過去

○状況…現在の事実とは異なる、実現不可能なこと

○表現…過去形を使って表す→この部分が名称の由来

○特徴…If...文(条件節)の中は過去形が使われ、後半の文(帰結節)には助動詞の過去形が使われる。

○例文

・If I had enough money, I could buy a computer.

(もし(今)十分なお金を持っていたら、コンピューターを買えるのに)

 →お金がないので買えない。

・If I were you, I would call her right away.

(もし私が君だったら、彼女にすぐ電話するだろうのに)

 → 君のように(勇気がないから)電話しない。

 

(2) 仮定法過去完了

○状況…過去の事実とは異なる、今さら実現不可能なこと

○表現…過去完了形を使って表す→この部分が名称の由来

○特徴…If...文(条件節)の中は過去完了形が使われ、後半の文(帰結節)には助動詞の過去形+have+過去分詞が使われる。

○例文

・If I had had enough money, I could have bought a computer.

(もし(あの時)十分なお金を持っていたら、コンピューターを買えたのに)

 →お金がなくて買えなかった。

・If you had told me, I would have helped you.

(もし(その時)言ってくれていたら、助けてあげたのに) 

 →事情を知らなかったから、助けなかった。

  

E. おわりに

いかがだったでしょうか? 仮定法はそれが表す状況さえ理解できれば、実はそれほど難しくないということがおわかりいただけたでしょうか。もっとも、自分のことを振り返ると、高校生のときにそれがよくわかっていなかったという事実もありますので、一度に理解するのはそう簡単ではないのかもしれません。教科書や参考書、そして今ならネットの例文などをいっぱい読んで、表面上に表れている特徴(つまり表現)とそれらが表す状況を理解するように努めてみてください。

 

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