これを読めば the の使い方がわかる①:基本理解編

定冠詞 the は、日本人の英語学習者が「使い方がよくわからない」「付けるか付けないか迷う」と言うことが最も多い語です。文法書などを見ても、「~の場合は付ける」「~の場合は付けない」などと多くの例があげられており、そのすべてを覚えるのは大変です。ところが、ネイティブ・スピーカーは感覚で瞬時にこれを使い分けます。ですから、その感覚をつかめばいいわけですが、筆者自身も長年それがわからずにいました。しかし、20年以上前にある本に出会ったことで、それがまさに「目から鱗が落ちる」ように解決しました。その本の名前は…

 

『日本人の英語』(マイク・ピーターセン著、岩波新書)

 

したがって、本書をお読みになれば、かつての筆者がそうであったように、あなたも目から鱗が落ちるように the の使い方を理解できるでしょう。ただ、本書はある程度英語の基本が身についている人を対象としたものなので、初学者や英語からしばらく離れていた人には難しいと感じられるかもしれません。そこで、今回はピーターセン氏の主張を基本としながらも、さらに初学者にもわかるところから出発して説明をしていくことにします。また、氏の本の説明にはない、より細かい疑問も扱っていきたいと思います。ただ、そのためには少々長めの紙幅が必要なので、全体を3回に分けて話を進めていきます。今回の説明を最後までを読み終えたとき、あなたはきっと the の使い方の“マスター”となっていることでしょう。それでは、スタート!

 

1. the とは何か

そもそも the とは何かという根本的なところから始めましょう。

 

英語には a/an と the という「冠詞」というものがあり、前者を「不定冠詞」、後者を「定冠詞」と呼んでいます。「冠」ということからわかるとおり、何かの上(この場合は前)に付くものです。では、何の前に付くものでしょうか。また、どのような役目があるのでしょうか。

 

2016年に一世を風靡したピコ太郎の「PPAP」。その冒頭で語られているのは…

 

"I have a pen.  I have an apple."  

※実際には、彼は"I have a apple." と言っていますね。

 

ピコ太郎がみなさんに彼が手に持っているものは何かと紹介しています。手に持っているものはペンとリンゴですが、誰のものか、あるいはどこで手に入れたものかなどはわかりません。つまり、持ち主も出所場所もわからないものです。そういう物(名詞)がある場合、それを表すためにその名詞の前に「持ち主がわからない」ということを表す語(ここでは a または an)を置きます。そして、この「わからない」、つまり「定まらない」というのが「不定である」ということから、a と an を不定冠詞と言います。一般に、a と an は「1つの」という意味だと習いますが、正確には「誰のものかわからない1つの」という意味があります。

 

一方、以下のような状況があったら、どうでしょう?

 

This is a pen.  I like the red pen.

話を簡単にするために、あえて日本語を与えてみると、the には「その~」という意味がありますよね。こうすると、一度話に出てきたペンである、つまり持ち主や出所が明らかなペンであることがわかります。そのような名詞には、持ち主や出所が「はっきりしている」、つまり「定まっている」という意味の「定冠詞」を付けます。

 

では、この「その~」の「~」の部分、すなわち「その」によって説明される部分はどこでしょうか?上の文で言えば pen ですね。red のような形容詞にはかかっていません。つまり、the は名詞を修飾する語なのです。また、

 

I like the new red ball-point pen. 

※ball-point pen ボールペン

 

の場合、new や red のような形容詞はもちろんのこと、ball-point という形容詞的に使われている名詞にも the はかかっていません。the の後ろに名詞が連続してあった場合(それを名詞句と言います)、the はその名詞句の一番最後にある名詞、つまりここでは pen にかかります。さらに、

 

I like the new red pen from France.  

 

などのように前置詞などがあると、そこから新たに前置詞句が始まるので、その前にある名詞句の the の“効力”は前置詞句の前で切れます。つまり、やはり pen にかかるわけです。

 

2. the がつく基本

まず、ピーターセン氏は、the を使いこなすには、ある1つの簡単なルールさえ知っていればいいと言います。そのルールとは、

 

「話者の間で共通理解が得られている普通名詞に付く」

 

というものです。しかし、そうだと言われても、簡単には理解できないかもしれません。そこで、どうしてそうなのか、その見分け方はどうしたらいいのか、等を見ていくことにします。

 

(1) 「話者の間で共通理解が得られている」とは?

 

先述したピコ太郎の「PPAP」の冒頭の表現を再度使ってみます。

 

"I have a pen.  I have an apple."  

 

もしこれを I have the pen. I have the apple. と言ったら、みなさんも感覚的に「変だよ」いうことがわかりますよね。それは、the には「その」という意味があるから、「いきなり『そのペン』って言ったって、何のことだよ?」と思うからです。一方、この続きとして次のような話があったら、どうでしょう?

 

Pikotaro had a pen.  He gave it to me.  Look!  This is the pen.

 

そして、「the pen って何だろう?」と聞かれたら、「ピコ太郎が僕にくれたペンだよ。」とみなさんは答えられるでしょう。そして、「なぜそう答えられるの?」と聞かれたら、「だって、すでに話に出てきていたペンだから。」と答えるにちがいありません。そこで、これまでに出てきた冠詞 a(an) と the についてまとめてみましょう。

 

① I have a pen.など、初めて紹介するものには a/an が付く。

※a/an を「不定冠詞」と呼ぶ

② Pikotaro had a pen.  He gave it to me.  Look!  This is the pen.  というように、すでに一度話に登場したものには the が付く。

 

以上のことから、the が付く、ある条件がわかると思いますが、それは何でしょう?

「一度話に出てきた」とは、「話者の間で共通理解が得られている」と言うことができます。the は形容詞や動詞などに付くことはできず、名詞に付くことも説明しました。そこで、ここまでのことをまとめてみると…

 

【まとめ①】「the は話者の間で共通理解が得られている名詞に付く。」

 

(2) 名詞の区別と the

名詞には大きく2つの名詞があります。それは「固有名詞」と「普通名詞」です。それぞれの例をあげると、

 

・固有名詞…Suzuki(人名)、Tokyo(地名)、English(言語名)

・普通名詞…pen(物)、school(建物)、bread(食べ物)、spring(季節)、time(概念)

 

つまり、固有名詞とは、人の名前や地名など、他には同じ物がない特別な(固有な)名前を表す名詞です。一方、普通名詞とは固有名詞以外の名詞すべてです。そして、この固有名詞と普通名詞という分け方が、the の付け方に大きく関わってきます。例えば、

 

I live in  ×  Tokyo.  I love the city.

 

なぜ Tokyo には the が付かないのかと言えば、東京は「その」東京などと言わなくても、誰もが Tokyo は東京だとわかるからです。一方 city の方は日本にあまたる「都市」の中で、ここでは「その」都市であると言わないと、どこの話をしているかわからないからですね。ここからわかることは、固有名詞には the は必要ないということです。このことから、the が付く条件をさらに絞り込むと、次のように言えます。

 

【まとめ②】「the は話者の間で共通理解が得られている普通名詞に付く。」

 

実は、これで結論にたどり着いたことになるのですが、これだけではみなさんの頭の中はスッキリしないかもしれません。そこで、もう少し話を進めることにします。

 

(3) 固有名詞とは?

前項で話題になった「固有名詞」とは何でしょうか? 授業で生徒に見た目の特徴を尋ねると、すぐに返ってくる答えは、

 

「大文字で始まっている語」

 

です。確かに、先述した固有名詞の例も大文字で始まる語ばかりですね。ところが、大文字で始まっている語(句)の中には、the が付くものもあります。これは【まとめ②】に反します。

 

the Olympic Games

the United States of America、

 

いずれも「オリンピック大会」「アメリカ合衆国」というイベント名、国名ではありますが、その名前(名詞句)の中にそれぞれ games(大会)、states(州)、という普通名詞があり、the はそれぞれその普通名詞にかかっていて、それは共通理解が得られている語なので、the が付きます。つまり、大文字で始まる語であっても、普通名詞を固有名詞のように使っている場合は、普通名詞扱いで the が付くことになります。つまり、大文字で始まっているかどうかで見分けるのではなく、名詞(句)の最後の語が固有名詞なのか普通名詞なのかを見分ける必要があるということです。

 

3. the が付く基本の確認演習

では、ここまで読んでもらった内容が理解できているかを確認する問題をやってみます。

 

(問)次の「第2次世界大戦」という2つの表現に the が付くかどうか答えなさい。

① (      ) World War II(=two) 

② (      ) Second World War 

 

「第2次世界大戦」は誰でも知っている、つまり共通理解が得られている名詞句ですから、それぞれの名詞句の最後にある語が普通名詞であれば the が付きますが、そうでなければ the は付きません。①は名詞句の最後の語が "II" ですが、これは「数詞」で普通名詞ではないので、答えは「×」です。一方、②は名詞句の最後の "war" が普通名詞なので、答えは「the」となります。同じことを表すのに the を付けるのと付けないのがあるというのは面白いですが、ここまでの説明どおりの論理的帰結でもあります。

 

いかがだったでしょうか。次回はもう少し細かい疑問について説明します。(11/18/2018) 

英語教師の方々へ

今回の内容は、参考書などでは何ページにもわたって説明されている the の使い方を理解する前提としての基礎知識を扱いました。少々まどろっこしいところもありますが、そもそも名詞とは何か、冠詞とは何かということに引っかかっている生徒には、それ以前のことを理解してもらう必要があると考えたので、今回はそこから始めました。先生ご自身の生徒の実態によって、どこから始めたらいいかの参考にしてください。

 

次に、当たり前のことですが、the を生徒にわかりやすく説明するには、まず先生ご自身がtheのことをよく知っていなければいけません。そうでないと、自信をもってこの問題を取り上げられないからです。そこで、冒頭で紹介したマイク・ピーターセン著『日本人の英語』の購読をお勧めします。それを読んでいただければ、おそらくこれまで the について悶々とした気持ちをいただいていたことがパッと晴れるでしょう。まさに「目から鱗が落ちる」感覚が味わえると思います。そして、おそらく筆者と同じように、ご自分の生徒にtheの使い方を易しく教えてあげようという気持ちになるでしょう。同書には the 以外にも私たち日本人英語学習者が陥りやすいいくつかの点が取り上げられているので、それらもきっと面白いと思います。