一夜漬けで「力がついた」気になってはいけない

「『~した』気になってはいけない」シリーズ第2弾です。大人のみなさんならかつては誰もが通った道であり、中学生や高校生であれば今まさにその渦中にあるであろう試験勉強。あらかじめ実施日が学年暦に書かれている定期考査もあれば、先生がある日突然実施を宣言する小テストもありますね。みんさんは、それらに対してどう取り組んでいるでしょうか。

 

試験勉強の仕方の1つにいわゆる「一夜漬け」と呼ばれるものがあります。元々は漬け物のことですが、試験の前の晩だけ急ごしらえで勉強することにも用いられているはみなさんもご存じのとおりです。最後の最後まで希望を捨てずに勉強をするという意味では悪いことではないのですが、普段勉強していない人がそのときだけやるという場合は、中長期的な視点で学力を高めるという視点からお勧めできません。いや、そういう勉強をしている人は自分が望むような学力を身に付けることはできないと断言しましょう。ここではその理由を説明します。

 

(1) 覚えたことは忘れる

コンピュータのような機械や『クイズ東大王』などに出ているような超優秀な人は別として、筆者を含めたほとんどの人間の場合に言えることは、「覚えたことは忘れる」ということです。忘れる度合いは人によってちがい、覚えたことをなかなか忘れない人もいれば、すぐに忘れてしまうひともいるでしょう(筆者は後者です)。

 

そこで、その様子を「理解している・覚えている曲線」という手書きのグラフにしたのが図1です。

図1

この図では、縦軸が「理解度・記憶度」(どのくらい理解しているか・覚えているか)で横軸が「経過時間」です。あることを覚えるのに時間のかかる人もいるでしょうし、前述のように忘れる早さも人によってちがいますが、ここではその2つを同じにしてあります。

 

勉強するときに多くの人が目指すのは、対象となることを覚えられる、あるいは理解できるまで勉強することでしょう。そこで、縦軸のある場所に「理解している・覚えている」と思われるレベルを直線で引いてみます。これを越えている間は試験のときに「理解している・覚えている」状態なので正解が書けるということを表します。

 

一夜漬けの場合、そのピークが試験当日に来るように勉強します。これは効果的で、試験のときには「覚えている・理解している」ので正解を書けます。結果的によい点が取れるわけです。

 

しかし、グラフを見ていただければわかるとおり、試験勉強が終わってしまうと「覚えていない・理解していない」範囲にまで落ちてしまいます。これは「試験ではよい点が取れているのに力がついていない」ことを表しています。本人にその自覚がある場合はまだいいのですが、答案が返されて結果が良かったことに「オレはできるんだ」と思ってしまうとしたら大変なまちがいです。

 

(2) 記憶は強化できる

では、どうしたいいでしょうか? 覚えたことは忘れてしまうわけですが、そうならないように記憶を強化することはできます。それは何度も繰り返し勉強するという方法です。

 

次の図2のグラフを見てください。

図2

これは記憶は繰り返し同じことをすることで定着するということを表しています。つまり、覚えている/理解している間に何度も繰り返し勉強することで忘れないようにするということです。身近で簡単な例をあげると、ある歌を聴いて一度だけ歌っただけだとその歌はすぐに忘れてしまいますが、繰り返し歌ったことのある歌は何年経っても忘れないという経験は誰にでもあるでしょう。

 

さらに、勉強する頻度(間隔)も重要です。それは楽器の演奏やスポーツの練習の成果に例えられます。楽器を毎日練習するのとたまに練習するのとでは、上達する速さがちがいます。スポーツの練習を毎日するのとたまにするのとでは、技術や体力の向上の度合いがまったくちがいます。また、すでに上手になっている人でも、練習の頻度(間隔)によってその技術や体力が維持できるかどうかが変わってきます。

 

教科の勉強も同じです。一度やってわかったからといってそのままにしていたら忘れてしまいますが、忘れる前に繰り返し勉強すれば忘れずにすみます。あるいは忘れるまでの期間を長くできます。特に、英語はすでに「理解している・覚えている」に加えて「できるようになっている」ことを土台にして、その上に新たなことを積み上げていく教科なので、「~している」ことが崩れてしまっていると、次に学習することが身につきません。

 

つまり、何か新しいことを身に付けようとしたら、以前に勉強したことからもう一度やり直さなければならないということなのです。

 

(3) 一夜漬けは"苦い"

以上が「一夜漬け」の勉強が特に英語学習にとってダメな理由です。試験の結果がよかったとしても、「力がついている」気にさせているだけです。一夜漬けでなんとか試験を乗り切り安心していると、次の試験で痛い目にあいますし、回を重ねるごとにどんどん成績が下がっていきます。そして、数年後に上位校に進学するための入試のときに苦労することになります。

 

「今よければそれでいいや」という発想を持ちやすい人は要注意です。勉強するときにもその発想を変えられない人は英語学習では成功しません。未来のことまで考えて地道に努力できる人だけが成功を手に入れられます。一夜漬けの漬け物は美味しいですが、一夜漬けの勉強は苦い将来を招くということを肝に銘じてください。

 

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