to play と playing は交換してはいけない

0.イントロダクション

シリーズ「~と‥は交換してはいけない」の第3弾です。今回も「へえ、そうだったんだあ~」と目から鱗を落としてください。

 

まずは次のような問題を見てください。

 

【問】次の2つの文が同じ意味になるように、空所に適語を入れなさい。

ア)Ken likes to play tennis.

イ)Ken likes (        ) tennis.

 

どこにでもありそうな問題で、おそらくみなさんも答えは playing を入れるでしょう。しかし、はたしてこの2つの文は「同じ意味」の文なのでしょうか? 

 

これまでの話の流れからすると、「表現がちがえば、意味やニュアンスはちがう」ということを筆者が言いたいのだろうと想像できるかもしれません。では、「どうちがうのでしょう?」という問いに対する答えを明確に説明できる人はいるでしょうか? 今回はそれを明らかにします。

 

1.2つの表現がもっている基本的な意味を理解する

答えをお伝えする前に、みなさんがよく知っている表現を使って、考えてもらいたいと思います。

 

➀ Hello.  I'm Ken.  Nice to meet you!  

② Well, Ken.  Nice meeting you.  Bye! 

 

➀と②の Nice ...で始まる2文は、今回話題にしている不定詞と動名詞の部分(太字)がちがうだけの文です。ところが、この2文は使われる場面がちがいます。それぞれどのような場面で使うでしょうか?

 

➀は小学校や中学校1年生の最初に習うので簡単ですね。「はじめまして!」という挨拶です。一方、②は「お会いできてよかったです。」と別れ際に言う表現です。この使用場面のちがいが2つの文の意味のちがいです。使い方のちがいがわかったでしょうか。

 

➀は、たった今会ったところで、「これから」話をするところだという場面ですね。②は、すでに会っていて、「これまで」話をしてきたという場面です。この状況のちがいが表現に出ているのです。以上をまとめると、次のように言えます。

 

・「これからすること」は不定詞の名詞的用法で表す。

・「これまでしてきたこと」は動名詞で表す。

 

同様のことは、2017年度NHKラジオ『基礎英語2』の7月号テキストの Grammar Box 15(p.76) でも次のように説明されています。

 

 『動名詞と不定詞(名詞的用法)は、動詞の目的語として使うことができます。動名詞を目的語にする場合は「過去にしたこと」、不定詞を目的語にする場合は「未来にすること」について表します。』

 

2.明らかなの意味のちがいがわかる具体例

みなさんの中には、「本当にそんなちがいがあるの?」「他にもっとわかりやすい例はないの?」と思っている人もまだいるかもしれません。そこで、よく知られている例文を使って説明しましょう。次のような2つの文では、明らかに状況が異なっており、そのちがいは1.で確認したことがストレートに表れています。

 

③ I forgot to bring my textbook.

④ I forgot bringing my textbook.

 

さて、いわゆる「忘れ物をした」という意味の「教科書を忘れました。」というのはどちらでしょうか?

正解は③です。なぜかと言うと、「(これから)持ってくること」を忘れた、つまり、「これからかばんの中に入れるのを忘れてしまった」ということだからです。では、④は何を忘れたということなのでしょうか?これは「(これまで)持ってきたこと」を忘れた、つまり、かばんやロッカーの中にあるのに、持ってきたこと自体を忘れてしまったということを表します。この2つの文の意味のちがいはとても大きいので、まちがって使うと全然ちがう意味を相手に伝えてしまうことになります。

 

3.2つの表現の意味のちがいを理解し使いこなす

では、0で取り上げた2つの文はどのようなちがいがあるのでしょうか。これまでの議論を踏まえて、改めて見てみましょう。

 

ア)Ken likes to play tennis.

イ)Ken likes playing tennis.

 

2つの文とも一般的には「健はテニスをすることが好きです。」と訳されます。しかし、1.の説明に従えば、少しちがう意味になっていそうですね。

 

ア)の文は「これからすること」を表しているのですから、「健は(これから)テニスをすることが好きです。」、つまり「テニスをしたい」ということを表します。一方、イ)は「これまでしてきたこと」を表しているわけですから、「健は(これまで)テニスをしてきたことが好きです。」ということを表します。

 

では、テニスを趣味にしているくらい好きだというのはどちらで言ったらいいでしょう?

 

そうです。もしみなさんが自分の趣味のことを言いたい場合は、動名詞を使った方が相手に正確な意味を伝えられるということになります。なぜなら、「これまでしてきたこと」だからです。もちろん、不定詞を使っても自分がテニスに興味があることは伝えられるでしょう。しかし、その度合いが趣味になっているほどであることは伝えられないかもしれません。

 

4.微妙な意味のちがいのある表現を理解し使いこなす

次の2つの文を見てください。この2文の使い分けは、1の定義を適用してもかなり難易度が高いです。

 

ア)I started to play the piano ten years ago.

イ)I started playing the piano ten years ago.

 

2つの文はいずれも「私は10年前にピアノを弾き始めました。」という意味の文で、日本語で見るかぎりはまったく同じ意味の文です。しかし、これも突き詰めて分析すると、ニュアンスのちがいが表れてきます。

 

不定詞の名詞的用法と動名詞が持つ意味のちがいを振り返ってみましょう。前者が「これからすること」を、後者が「これまでしてきたこと」を表すのだとしたら、上記の2文のちがいは何でしょうか? それは「ピアノを弾くこと」を「これからすること」に着目して言っているのか、「これまでしてきたこと」に着目して言っているのかということです。まず、ア)は「10年前に弾き始めた」ということを言っているだけで、その後にどうしたのかまでは言っていません。つまり、弾き始めた時点とその直後のことしか言っていないのです。一方、イ)は「10年前に弾き始めた」ことに加えて、これまでしてきたこと、つまり「今でも弾いている」ことまで含んでいる表現なのです。

 

ここで取り上げた2つの文のちがいは、状況のちがいがはっきりわからないので、意味のちがいを2の③と④や3のアとイほど明確に説明するのは難しいかもしれません。しかし、動名詞と不定詞の名詞的用法が持っている意味を正しく理解すれば、このような微妙な使い分けもできるようになるわけです。

 

なお、ここで説明したことは、さらにみなさんが持っているだろうと思われる疑問に対する解決への道しるべともなります。それは…

 

「16. なんで stop や finish の後に不定詞の名詞用法が使えないの?」です。

 

どうぞお読みになってください。

 

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英語教師の方々へ

今回取り上げた話を生徒にどのように伝えるかは慎重にした方がいいでしょう。筆者は中2で不定詞の名詞的用法と動名詞の両方が出てきてしばらくしてから、「ところで、2つの表現のちがいはなんだろうか?」と話題を出し、上記のような説明をしています。その説明を聞いて、すぐに「なるほど」と納得する生徒もいれば、ポカンとしている生徒もいます。したがって、一度の説明で納得させるのは難しいと考えて、辛抱強く繰り返し指導していくのがいいと思います。

 

ただ、1つだけ断言したいことは、2つの表現にはちがいがないと言い切ったり、テストに書き換え問題として出したりすることは避けてほしいということです。テストに出すのであれば、むしろ2つの表現のちがいを理解した上で正しく使い分けられるかということを問う問題(場面設定をして、どちらがより適切かを問う問題)を出すのがよいでしょう(筆者はそうしています)。

 

なお、上記の最後にもありますが、今回取り上げたことは、英語教師なら必ずや生徒に説明するであろう、ある有名なルールの理由を論理的に説明することにつながります。それは次のシリーズで取り上げます。