映画は究極の英会話教材

世の中には英会話教室や英会話番組がたくさんあります。ただ、多額の受講料がかかったり、通う時間がなかったり、そもそも自分の生活空間の近くになかったりして、なかなか受講できないという方も少なくないでしょう。もっとも、最近では手軽なインターネットの講座などもあるようですが…。そのような方も含めて会話表現の学習に有効な方法の1つが、映画を使うことです。

 

筆者が学生であった1980年頃までは、映画は劇場で見るもので、毎日のようにテレビでやっていた洋画劇場は日本語吹き替えだったので、映画を英語学習用の教材とは考えられませんでした。ところが、80年代初頭から流行し始めたレンタル・ビデオがその状況を大きく変えました。それは、好きな時に、何度もお気に入りの映画を使って実際の会話表現を勉強できるようになったからです。今ではそれをビデオより便利なDVDやブルーレイあるいはインターネット(ストリーミング)という媒体を使って、より手軽に行うことができます。

 

筆者は1980年代から映画を使って英語を勉強しています。いや、「勉強している」というより、映画を楽しんでいるうちに映画の中で使われている表現を身に付けてしまったと言った方がいいでしょう。授業中に使う表現も、映画の中で使われている表現をそのまま拝借しているということがけっこうあります(ちなみに、筆者の勤務校では100年以上も前から日本人教師も英語で授業を行っています)。今回は、そのような映画の活用法を筆者の経験を踏まえて紹介しましょう。

 

(1) 映画が英語学習に有効な理由

映画が英語学習に有効な方法であると考えられる理由は、以下の3点です。

① ネイティブ・スピーカーの英語が聞ける(英語圏の作品の場合)

② ナチュラル・スピードの英語が聞ける

③ 実際の場面で使われている英語が聞ける

 

「えっ? それだったら、そういう教材を探せばいいでしょう…。」と思った方もいらっしゃるでしょう。確かに、英語学習用に作られた音声の方が初心の英語学習者にはいろいろな面で“優しい”ということもありますし、学習者の進度に合った教材を選ぶことができるというメリットもあります。しかし、映画にはそれらと決定的にちがう、4つ目の理由があるのです。

 

④ 自分の好きな作品であれば、何度でも繰り返し見ることができる

 

そうです。いわゆる純粋な英語学習教材の場合、場面設定などに興味がわかないと、それを聞き(見)続けるのにある程度の忍耐が必要です。ところが、自分の好きな作品や好きな俳優が出ている作品であれば、繰り返し見ても飽きません。この「繰り返し見ることができる」というのが、映画を英語学習の教材として筆者が勧める最大の理由です。

 

(2) 筆者が勧める映画の利用法

「~をするのに最適な方法は何ですか?」というのは、筆者がよく生徒から尋ねられることです。しかし、人によって「最適な方法」は異なるので、それは一概には言えません。ただ、ある程度の原則は経験上語ることができますので、筆者がお勧めする映画の利用法をご紹介しましょう。

 

その活用法とは、次のような順番で映画(DVDやブルーレイのソフト)を使うことです。なお、市販のソフトではないと、①~④のような切り替えができないことがほとんどだと思います。

 

① 日本語吹き替え版を見る

② 英語版を日本語字幕ありで見る

③ 英語版を日本語字幕なしで見る

④ 英語版を英語字幕版ありで見る

⑤ 英語版を日本語字幕なしで繰り返し見る

 

では、なぜ上記のような方法がいいかを説明します。

 

① 日本語吹き替え版を見る

日本語を聞いても英語の学習には直接なりませんが、②以降の方法で映画を見る時に役立ちます。それは、物語の内容や台詞の意味がわかってから英語を聞くと、英語の表現を理解しやすくなるからです。

 

なお、あらかじめ内容がわかっていることを「スキーマがある」と言います。スキーマ(schema)とは、元々はドイツ語で「形式」を意味することばですが、それが転じて「予備知識」とか「事前の心構え」のような意味でも使われることばです。そして、スキーマがあると耳や目から入ってきた情報を理解しやすくなということが心理学上わかっています。①はスキーマを最も手早く身に付けるには格好の方法です。

 

② 英語版を日本語字幕ありで見る

ある映画を初めて字幕版で見ると、どうしても字幕で台詞を理解することに注意が行きがちで、英語が耳に入ってこないことが多いのですが、それでも繰り返し見ていると、英語の台詞自体が耳に入ってくるようになります。

 

そうすると、「今の台詞を英語で言うと、そういう風に言うんだ」と思ったり、英語だけを聞いていた時点では聞き取れなかった英語が聞き取れたりするようになります。こうなるとしめたもので、次の段階として、字幕はあくまでも補助的なもので、英語そのものに集中できるようになってきます。それは、自分が英語を話す人たちの中にいる、 つまり英語圏で生活しているような環境の入口に立ったことを意味します。

 

③ 英語版を日本語字幕なしで見る

②で抵抗感がやわらいだら、ぜひ③に挑戦してください。そうすると、英語の台詞のみに集中できるようになります。台詞の意味は①と②でわかっていますから、各台詞の意味がわかった上でその英語を聞くので、さらに一歩進んだ表現理解ができます。しかも、ここまで来ると、その台詞が頭の中に“こびりつく”(残る)ようになります。そして、この段階になると、台詞を言っている俳優の口元をよく見ている自分に気づくことでしょう。つまり、実際に自分がその会話の中にいるような状況を疑似体験できるというわけです。

 

余談ですが、DVDが登場する前は日本語字幕をビデオから消すことができませんでした。筆者は自分の部屋に初めての給料で買った大型テレビ(当時は28型がほぼ最大)を持っていましたが、この活動を行うために、テレビ画面の下4分の1ほどを厚紙で貼って隠して見ていました。そうした工夫も懐かしい経験です。

 

④ 英語版を英語字幕ありで見る

③で英語の表現に慣れたとは言え、まだまだ何と言っているかわからない表現はたくさんあるでしょう。特に、話すのが早い俳優の台詞はなかなか聞き取れません。そこで、最後の手段として、英語字幕を出して映画を見ます。そうすると、それまで聞き取れなかった台詞を目で確認することができます。耳で聞いて、目で確認することで、その英語の台詞をより強く脳裏に刻むことができるというわけです。

 

ただし、英語字幕は必ずしも実際の台詞を100%カバーしているわけではありません。元々は耳が不自由な人が台詞を楽しめるようにするために入れられたものだからです。文字を読むスピードには限界があるので、台詞を理解するのにそれほど重要ではない表現はカットされてしまっていることもあります。

 

これも余談ですが、ビデオテープの頃はこれを C.C.(closed caption)と言って、対応のプレーヤーであれば出したり消したりすることができました。DVDソフトであっても、原盤が少し古めのテレビ番組であったりすると、作品の冒頭の画面の右下に "C.C." と出ているものがありますが、それはこの操作ができる番組であったということです。

 

⑤ 英語版を日本語字幕なしで繰り返し見る

もう何も言いません。気が済むまで何度も見てください。そうすると、きっと中には映画1本文の台詞がすべて頭の中に入ってしまう人もいるでしょう。そうなったら、全出演者を一人で演じているつもりでブツブツ映画の台詞を再現してみましょう。それができれば、その台詞の英語が使われている場面も、意味も、表現も、発音も、ずべてわかった上でその英語を使えるようになっていることを意味します。これは、実際に英語圏で生活している間に英語を身に付けたのとほぼ同じことになります。

 

筆者が「授業で使う英語にも映画の台詞から拝借したものがある」と先述したのは、このような状況になった映画の台詞です。さらに、授業中に「『~』は英語で何と言ったらいいですか?」という生徒の質問に「『…』という映画の中で『~』と言っているよ」などと言えるのも、映画を繰り返し見て頭に台詞が残っているからです。

 

なお、映画の実際の台詞を100%知りたい場合は、映画のシナリオ本を手に入れることをお勧めします。少し大きめの本屋さんの洋書コーナーか英語教材コーナーを探すと、人気洋画作品のシナリオ本が手に入れられるはずです。筆者はそれらをよく通勤電車の中で読み、映画を見ずに頭の中で映画を再現しています(笑い)。

 

(3) 筆者が勧める映画

これだけでもけっこうな紙幅をとるので、別ページで説明します。関心のある方はこちらへどうぞ。

 

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