④ 教科書の場面を客観的に描写する

タイトルの意味することは、実際にはどういうことを指しているのでしょうか? 簡単に言えば、教科書本文の内容を挿絵などを見ながら客観的に説明するということです。説明文ならおそらくそれほど表現を変える必要はないでしょうが、会話文だとそれぞれの台詞を説明文に変える必要があります。英検の3~2級の二次試験を受けたことがある人なら、カードに描かれている絵の内容を説明するという問いに答えたことがあるでしょう。今回の活動はまさにそういう活動を指しています。

 

1. 客観的描写(リテリング=retelling)の効果

ここで言う「客観的描写」とは、教科書本文をそのまま暗唱するのではなく、自分で考えた表現で言い直すということです。それをここでは「リテリング」(retelling 再度言うこと)とします。客観的描写ですから、他の人にもわかるような表現で説明することになります。説明文であれば、概要や要点をまとめて言う、つまり要約するような活動と言えるでしょう。会話文であれば、それぞれの話者が一人称の立場で言っていることを第三者の立場で説明するような文に直す活動になります。

 

この活動の効果は主に次のような点にまとめられます。

 

① 考える力を養う

単にそのまま暗唱するのとちがって、自分のことばで表現するわけですから、元の文章を見て、それをどのように変えたらわかりやすい説明になるかを考える必要があります。説明文であれば、重要な部分をどのように切り取り、それをどのようにまとめればいいかを考えることになります。会話文であれば、会話体の文をどのように説明調の文にしたらいいかを考えます。つまり、頭をフル回転する必要があるのです。そうした活動を繰り返すことで、「考える」力が養われます。

 

② 判断する力を養う

この活動では、自分で考えた表現ではたして他の人にわかってもらえるのかを検討することになります。思いついた表現をそのまま言っていいのか、他の部分と照らし合わせたりして調整したらいいのか、授業であれば仲間の発表を参考にしてそれを少し変えたりした方がいいのかなど、いろいろなことを試行錯誤しながら、最終的には自分で「これがいいだろう」と決めることになります。そういう活動を繰り返すことで、「判断する」力を養います。

 

③ 表現する力を養う

適切な表現は何かを考え、最良の表現を決めるという活動をしている間に、既習の表現を思い出したり口に出したりすることで、習ったことの記憶を強化することができます。また、どのような表現を使ったらいいかわからずに辞書などを使うこともあるかもしれません。必要に迫られて調べたことは、単に課題だから調べたことに比べて、記憶に残る程度が高くなります。このように既習の表現を定着させ、新たな表現を身につける、つまり表現力を養うことにつながるのです。

 

以上のことは、学習指導要領で言うところの「思考力・判断力・表現力」の育成と重なります。学習指導要領で教師が育成すべき生徒の力をこの活動で身につけることができるのです。

 

2. 客観的描写のやり方

では、ここでは筆者の学校で行っている客観的描写の活動例を元にどのようにこの活動を自分で行ったらいいかを説明します。

 

(1) 概要

まず、教科書の中から適当にあるページを選びます。説明文(モノローグ)でも会話文(ダイアローグ)でも構いません。ただし、説明文か会話文かでやることが異なりますので、以下の説明を見て自分でやりやすそうな方を選んでください。もちろん、両方にチャレンジしても構いません。

 

① 説明文(モノローグ)の場合

ア)ステップ1

最も簡単な方法は、教科書本文は見ないで覚えているかぎりのことを説明することです。教科書とまったく同じでは「暗唱」になってしまうので、むしろ少し異なっているくらいの方がいいと思います。元の表現にこだわらずに、自分で思いついた表現を混ぜながら内容を再生してみます。

イ)ステップ2

次に、元の内容の要点を落とさずにできるだけ短くまとめて説明してみます。つまり、「要約」するということです。そのためには元の文章で使われていた表現を他の表現に置き換えたり、不必要だなと思った内容は切り捨てたりします。

 

② 会話文(ダイアローグ)の場合 

ア)ステップ1

教科書本文を見ながら、どのように変えられるかを検討します。基本的には一人称の主語を三人称の主語に置き換えることです。ただし、一人称で述べられている内容を三人称、つまり客観的な立場で述べると動詞の形や所有格の代名詞を変える必要が出てきますから注意してください。また、場合によっては時制を変える必要もあるでしょう。

イ)ステップ2

ステップ1で検討した文章を1文ずつつぶやいてみます。単独の文では大丈夫だと思っても、複数の文を連続で言っている間に時制や内容などにちぐはぐな部分が出てくる可能性があるので、その場合はすべての文に都合がよくなるように調整します。 

 

(2) 具体例

ここでは令和3年度版 NEW HORIZON(東京書籍)2年生の教科書を使って実際にやってみましょう。スペースの関係で、オリジナルのページは表示せず、ベタ書きします。

 

① 説明文(モノローグ)の場合 Unit 1 Scene 1(p.9) ※メール文

<原文>

Hi, Josh.  Guess what?  I'm going to visit Singapore during the "Golden Week" holidays.  It's my first trip abroad.  I'm so excited.  I'm going to stay with my aunt and her husband.  They are going to show me around.  How about you?  Do you have any plans for the holidays?  Asami


<リライト文> ※太字は注意すべき点

This is an e-mail from Asami to Josh.  Asami is going to visit Singapore during the "Golden Week" holidays.  It's her first trip abroad.  She is so excited.  She is going to stay with her aunt and uncle.  They are going to show her around.  Asami is asking a question to know Josh's plan for the holidays.


→最初に状況設定を書いてみました。少し難しいのは最後のAsamiの質問をどう処理するかです。ここでは上記のようにしてみましたが、Asami asks if Josh has any plans for the holidays. のように3年生の文法で表現することもできるでしょう。

 

② 会話文(ダイアローグ)の場合 Unit 1 Scene 2(p.10)

<原文>

Asami: What are we going to do today?

Uncle: First, we're are going to visit Merlion Park.

Asami: Is the park far from here?

Uncle: No, it's not.  You'll see the Merlion soon.

Asami: I can't wait.

Uncle: After that, we're going to have lunch.  What do you want to eat?  Seafood or chicken rice?

Asami: I want to eat seafood.

Uncle: OK.  I'll make a reservation.   


<リライト文> ※太字は注意すべき点

Asami and her uncle are talking about their plan for that day in the car.  First, they are going to visit Merlion Park.  It is not far from there, and they will see Merlion soon.  Asami cannot wait to see it.  After that they are going to eat lunch.  Asami's uncle suggests two choices, seafood or chicken rice, and Asami wants to eat seafood.  Her uncle will make a reservation.  


→最初に状況設定を書いてみました。一番難しいのはおじさんが何を食べたいかを質問しているところです。それを中2で言えそうな簡単な表現で表してみました。なお、全体を通して誰が言ったのかという表現(例:Asami said, "~.")はしつこい感じがするので省略しました。要は客観的な立場でこの会話の場面を再現できればいいということです。

 

E.おわりに

どうだったでしょうか。初めてチャレンジした人は少し難しく感じるかもしれませんが、慣れてコツがつかめると比較的簡単にできるようになると思います。“正解”がないので自分のやったことが正しいのかどうかのチェックができませんが、少しくらいのミスを恐れてやらないよりは、数をこなしているうちにミスが減っていくことを期待してやる方が力が伸びます。ぜひチャレンジしてみてください。

 

(2) 実践演習 へ(準備中)

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