① 英語のリズムを大切にする

英語学習をしていると、「英語には日本語にないリズムがある」とか「英語はリズムが大切である」というようなことを耳にすると思います。しかし、ただ「リズム」と言っても、おそらくイメージするのは音楽のリズムであったり体操をするときのリズムであったりするのではないでしょうか。この場合、リズムとは何かを行うときの「一定の拍子」を表すと思うので、言葉におけるリズムとは何かということがイメージできないかもしれません。

 

そのように考えると、「別にリズムなんか意識しなくても英語を話したり聞いたりすることはできるだろう」と思ってしまいます。しかし、実際にはこのリズムを意識して練習するかどうかが相手に自分の英語が伝わるかや相手の英語がわかるかということに大きな影響を与えるのです。

 

ここまでお話ししても、多くのみなさんは「それって、ホント?」と思っていらっしゃるでしょう。そこで、そのような方の「目から鱗が落ちる」具体的なエピソードをいくつかお話しし、それをどう考えてどう練習すれば英語を使いこなせるようになるのかということをご紹介しようと思います。

 

1. さらだ~、さら~だ、さ~らだ?(単語のレベル)

上の表題は何を表しているかわかりますか? 実は、これは筆者がアメリカで知り合った同年代の日本人の男性(以下「A氏」)が、レストランでサラダを注文したいときになかなか通じずに言っていたある単語です。

 

もうわかりましたね。A氏は「サラダ」を注文したかったのです。ところが、最初に言った「さらだ~」が通じなかったので、では強く発音する部分を変えて「さら~だ」「さ~らだ」と言ってみたわけですが、結局通じずにメニューを指さして注文したという実際の出来事です。

 

この場合の問題点として考えられるのは、1つは「l」と「r」の音のちがいです。日本人にはほとんどわからないちがいですが、ネイティブ・スピーカーははっきりとそのちがいを聞き取るからです。おそらく、A氏の発音が「sarada」だったので、アクセントの位置をいくら変えても通じなかったのでしょう。ちなみに、サラダは salad というつづりです。

 

ただ、それと同等かもしかしたらそれ以上と思われるくらい大切なちがいがここに隠れています。それが「リズム」です。これは「アクセント」あるいは「強勢」とは少しちがいます。これらはいずれも「強く」発音する部分のことを言っていますが、音の長さまでは含んでいません。そこまで含めたものをここでは「リズム」と呼ぶことにします。

 

私たち日本人は、日本語を話す時に1文字1文字が表す音を基本的に同じ拍子で話します。例えば、上の例で言えばアクセントの位置をいくら変えたとしても、基本的には「さ、ら、だ」の3音節です(「~」の部分は少し長くなりますが)。しかし、実際の salad の発音は「サールッド」です。上と比較しやすく表記すれば、「サー、ルッド」、つまり2音節で、しかも最初の音が強く長く発音し、後半の音は短く弱く発音します(さらに「ド」は飲み込んでほとんど音を出さない)。したがって、2音節の単語を3音節で発音したら通じないのは当たり前なのです。

 

これを筆者がなぜ「リズム」と称しているかというと、リズムに乗って単語の発音練習をすると、このような単語が相手に通じる・聞いてわかる発音ができるようになるからです。そこで、その具体的な練習法を示しましょう。 

 

まず、4分の4拍子でリズムをとってもらい、それに合わせてこの単語を言ってみます。そのとき、最初の拍子1つだけで salad を言います。けっして2つ目の拍子にかかってはいけません。しかも、「サー」は強く長めに言いますが、「ルッド」は短く弱く言います。「ド」は飲み込んでしまってください。これを繰り返し言ってみましょう。

 

 salad, tennis, baseball

   

2. げらーらひぁ(句のレベル)

次は句のレベルです。「げらーらひぁ」とはいったい何でしょうか?

 

これは「学習法に関すること」の「1. たくさん聞くだけではリスニング力は高まらない」でも紹介した4語でできたことばです。そうです。Get out of here!、つまり「出て行け!」です。

 

これがどうして「ゲラーラヒァ」になってしまうかと言うと、get のt、out の t、of の f がほとんど発音されないからです。このことばを発するときはおそらく相当興奮しているときですね。そういうときは早口になります。そうすると大事な部分以外は適当に発音したくなります。しかし、「t」という音は破裂音なので、一端息をためて破裂させないと発音できません。したがって、息をためて発音するという行為が必要な「t」の音が落ちてしまったり「r」の音に変化してしまうのです。

 

そうなると、強く長めに発音するのはゲラの「ラ」と「ヒァ」のみになり、結果的に「ゲラーァ」となります。get と out を比べると、out の方がより重要な意味を持っていますから、「ゲ」より「ラ」の方が強く発音されます。つまり、「out」と「here」さえあれば意味は伝わるわけです。

 

そうだとすれば、「ラー」と「ヒァ」の部分だけに強勢を置いたリズムで話されるはずです。つまり、out と here のところだけ強く長く発音され、残りはほとんど無視されていることを知らなければなりません。最近になって放送されているTVのCMである有名な予備校の講師がちょうど同じような部分を取り上げて「聞こえないんじゃい。最初から言ってないんだ」と言っていますが、まさにそのとおりなのです。

 

では、これを練習してみましょう。まず4分の4拍子を打ってください。次に、最初の「ゲ」は裏で入って「ラー」で最初の拍子を打ち、「ヒァ」の部分で2つ目の拍子を打つようにします。

 

 Get out of here.

       

3. あいむぐっどさんきゅ~?(文のレベル)

さあ、単語、句と来れば、次は文ですね。「あいむぐっどさんきゅ~」とは、もちろん I'm good, thank you. のことです。How are you? に対する挨拶のことばですね。good の部分を fine とすることもあるでしょう。最近は good の方が好まれるようです。

 

現在これをお読みになっている方が小・中・高生であったり、かつてそうであった人であったりとして、みなさんが知っている英語の挨拶が下記のようなものであったとしたら、どのように読みますか(発声しますか)? なお、ここでは「そのような挨拶はアメリカではしない」とかそういう話はここでは一端置いておきます。

 

先生:How are you today?

生徒:I'm good, thank you. How about you?

先生:I'm good, too, thank you.

 

上記の挨拶の文を、多くの場合に聞かれるリズムで強調点を太字で示すとすると、おそらく以下のようではないでしょうか。

 

先生:How are you today?

生徒:I'm good, thank you. How about you?

先生:I'm good, too, thank you.

 

もしかしたら、現在これをお読みになっている小・中・高生のみなさんの学校でもそうかもしれません(筆者がこれまでに行った先生方向けの講習会の経験からすると、確率としてはかなり高いと思います)。試しに、上記の強調点を意識して4分の4拍子で言ってみてください。

 

どうでしょうか。おそらくリズムに乗って言えたと思います。そして、みなさんの多くが授業でこのようなリズムで大きな声で挨拶をしているでしょう(したことがあるでしょう)。

 

「これのどこがおかしいの?」と思われたかもしれません。実は、一見すると良さそうなこの挨拶のリズムは、英語の本来のリズムとは異なっているのです。本来は以下のようであるべきです。

 

先生:How are you today?

生徒:I'm good, thank you. How about you?

先生:I'm good, too, thank you.

 

おそらく初めてこのリズムを見た人は、「えっ?いったいどうやって読むの?」と思ったでしょう。何せ、各文の最初の語にに強勢がありませんからね。でも、このように読む(発声する)方が英語の本来のリズムに近いものとなるのです。

 

本ページの最後の部分で先生方に向けてのメッセージを書きますが、ここではみなさんに上記のリズムで挨拶することに慣れてもらうことにしましょう。

 

上記の場合、4分の4拍子を打ちます。最初の How は裏で入って最初の拍子を are で打ってください。そのまま進んで2つ目の拍子は today の day で打ちます。同じように、2行目、3行目の I'm には拍子を打たずに裏で入り、次の good に拍子を打ちます。そして、そのまま後ろにある単語の太字部分に拍子を打ちます。

 

慣れるまでは結構難しいと思います。筆者も最初は戸惑いましたし、先生方の研修会でも多くの先生方がなかなか乗れずに四苦八苦(?)しています。しかし、筆者の学校では全校生徒がこのリズムにすぐに慣れて、3年間このリズムで挨拶をしています。毎回とても気持ちのよい挨拶ができています。

 

と言ってもなかなかイメージがわかなかったり、やってみたけどうまくいかないという人もいるかもしれませんね。そこで、実際に筆者が教えている1年生の授業の挨拶場面を聞いてもらいましょう。そのためにYouTubeにその場面の動画を上げておきましたから、それを見てぜひみなさんもこのリズムになれてください。ちなみに、その挨拶では次のように言っています。

 

週番生徒①:Hello, Mr. ◎○○○(筆者名).

生徒:Hello, Mr. ◎○○○(筆者名).

教師(筆者):Hello, everyone.  How are you?

生徒:I'm good, thank you.  How about you?

教師:I'm good, too, thank you.

週番生徒②:What day is it today?

生徒:It's Tuesday.

週番生徒③:What's the date today?

生徒:It's December first.

週番生徒①:How's the weather today?

生徒:It's sunny.

教師:Who is absent today?

生徒:No one is absent.

 

いかがだったでしょう。単語、句、文と順番に見てきましたが、いずれの場合もリズムを大切にして言った方が相手に伝わりやすい英語らしい発音になりますし、そのように発音する相手の英語も聞き取りやすくなることがわかったと思います。ぜひ、リズムを大切にして日々の練習をしてください。

 

"やらせ"ではなく、通常の授業の録画から切り取ったものです。緊急時代宣言で5月まで授業ができず、7月末まで分散登校を行ったので、全員で授業をしたのは8月末が最初でした。例年の1年生より4ヶ月遅れのスタートでしたが、そこそこできるようになりました。2年生になった今(2021年4月)はもっと上手になっています。

本ページは学習者よりも指導する側の先生方の方に強く意識していただきたいことだと思っています。それは先生方の英語のリズムが生徒に乗り移るからです。生徒の英語は先生方の英語の鏡です。したがって、生徒の英語のリズムも先生方の英語のリズムを反映しています。

 

今回はあえて授業中の指導過程の大切な1つである(であろう)授業の挨拶の部分を取り上げました。ぜひ先生方ご自身で上記のリズムを練習なさってみてください。上記の映像ではリズム源としてNHK出版の『チャンツでノリノリ英語楽習』というCDブックに収められているリズム(チャンツ)を使っています。すでに絶版ですが、中古がネットで手に入りますので、探してみてください。