なぜ「楽器を弾く」は楽器に the をつけるの?

【質問】

授業では「楽器を弾く」というときは楽器に the を付けると習いました。どうしてでしょうか? a を付けることはないのでしょうか?

 

【回答】

みなさんも「『楽器を弾く』と表現する場合は play the piano と楽器に the を付ける」と教えられた記憶があると思います。あまりにも当たり前のように教えられるので、「そういうものか」と納得させられてそのように表現してきたでしょう。しかし、よくよく考えてみれば、「なぜ楽器には the を付けるのだろう?」という疑問が湧いてこないでしょうか。筆者は中2の終わりの頃から中3にかけてよく the の付け方について改めて教えているのですが、その時に生徒からよくこの質問を受けます。やはり気になるのでしょうね。今回はこの点をはっきりさせましょう。

 

最初にお断りをしておきますが、ここで問題にしていることは「『楽器を弾く』と表現する場合に the を付ける」ということであって、「楽器には常に the を付ける」ということではありません。例えば、楽器について表現するときに、以下のような文では the は付けません。

 

・That is not a piano.  It is an organ. (あれはピアノではなく、オルガンです)

・My father bought me a violin.(父が私にバイオリンを買ってくれました)

 

いずれの文でも楽器(ここでは piano, organ, violin)には the ではなく a が付いています。このことからも、常に楽器に the が付くわけではないということがわかると思います。この点を勘違いしている人もけっこういるので、ここで改めて確認しておきます。

 

では、なぜ「楽器を弾く」という場合に the を付けるのでしょうか? 

 

the は「すでに話に出てきたものに付ける」ということはみなさんも知っていますね。いきなり「その~」と言ってもわからないからです。「でも、『楽器を弾く』と言う場合はいきなり the を付けているぞ」とも思ったことでしょう。ここで the を付けるのにもう1つ大事な条件があることを思い出してください。それは、「話者の間で共通理解が得られているものに付ける」ということです。「すでに話に出てきた…」もこれに当てはまります。

 

では、「話者の間で共通理解が…」と「楽器を弾く」との関係は何なのでしょうか? これはみなさんが学校の授業でリコーダーを吹く場面を思い浮かべてみてもらえればわかると思います。例えば、昨日の授業でリコーダーを吹いたとします。それを次のように言ったらどうでしょうか?

 

I played a recorder yesterday.

 

「ん? 別に変だとは思わないけど…」と思った人もいるかもしれませんね。しかし、ここで使っている a recorder の "a" に問題があります。a は「1つの~」という意味の他に「誰のもでもない~」という重要な意味があります。a のことを「不定冠詞」と呼ぶのもそのためです。a はその後ろにある名詞の持ち主が「不定」であるときに付ける冠詞だということを表しています。

 

そうすると、上記の文は「誰のものだかわからないリコーダーを吹いた」という意味になります。みなさんは、持ち主のわからない笛を吹きますか? そういうことに頓着しない人もいるかもしれませんが、基本的には楽器は自分のものを吹きますよね。つまり、the を楽器に付けるということは、「いつも自分が使っている『その』楽器」を表すのです。だから、「楽器を弾く」と言う場合には the を付けるのです。

 

「楽器を弾く」と言うときに楽器に the を付ける、つまり持ち主が固定している楽器を弾くという表現をするのは、以前は楽器が大変高価なもので、また楽器を弾ける人も一部の上流階級の人に限られていたということとも無縁ではないとも言われています。例えば、昔はピアノは大変高価なもので(今でも高価ですが…)、「ピアノを弾く」と言えばどのピアノを指しているかをみんなが知っていたからだというわけです。

 

なお、「楽器を弾く」場合でも必ずしも the を付けない場合もあるでしょう。その場合は、複数ある楽器の中の1つを演奏したということを表すはずです。

 

・I played a piano at a piano shop. (あるピアノ屋で(何台かある)ピアノの1つを弾いた)

・I played a guitar in the music room. (学校の音楽室で(何本かある)ギターのを弾いた) 

 

※冠詞の付け方、特に the の付け方に関心を持った方は、「文法や表現に関すること」「7. これを読めば the の使い方がわかる①」から同④を読んで見てください。

 

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