音声器官を学んで発音を向上させる

ことば(ここでは「音声」とします)を発生する器官として真っ先に思いつくのは、喉と口(舌、歯、唇)でしょうか。しかし、実際にはそれよりも多くの器官がことばを発するときに関わっています。そして、それらはさらに細かい部分に分けられ、発する音の種類によって使う器官が異なります。

 

そこでここでは、音声を発する器官(音声器官)をきちんと理解することで、どの部分でどのような音を出すのかということの知識を身につけてもらいます。そしてそれは、正しい発音をするための知識として重要なものであり、その知識を利用して発音技能を高めることができることを理解してもらえるでしょう。

 

1. 音声器官の名称

音声器官にはどのようなものがあるでしょうか。ここでは筆者が大学の「英語音声学」の授業で使ったパワポ画面で見てみます。なお、教科書に載っていた図は白黒で味気ないものだったので、ネット上でカラーのものを探して利用させてもらいました。 

 

※右上の緑字の表記は学生が持っている教科書の表記と若干異なっていることを伝える注意書きです。

この図の優れているところは、具体的な部位を赤字で、それらによって作られる空間を青字で示しているところです。それによって両者を視覚的に瞬時に区別できます。驚いたのは「咽頭」で、それまでは具体的な器官の名前だと思っていました。医学的には咽頭は喉のかなり上にある上咽頭から中咽頭、下咽頭までの広い範囲の器官を指す総称として使われていますが、音声学的にはその部分の空間を表すという扱いになっているようです(教科書の図もそうなっています)。

 

2. 音声器官の覚え方

上の図を見ると、普段の生活でよく使う「上唇」「下唇」「歯」「歯茎」以外はあまりなじみのない名前で、これらを一度に覚えろと言われても「うわ~!」とうなってしまうかもしれません。実は筆者自身がそうでした。そこで、これを学生に指導する際にはなんとか覚えやすい方法がないかと考えました。そしてある良い方法を思いつきました。それを実際に授業で使ったパワポ画面で紹介します。最後に確認のテストがありますので、ぜひみなさんも試してみてください。 

 

(1) 色分けされた簡単な方を覚える

まず、青字で示された「空間」を表すものに着目します。これなら3つだけですから覚えやすいでしょう。「鼻腔」「口腔」「咽頭」です。

 

(2) 残った赤字の部分を分けて覚える①

まずよく知っている上唇、下唇、歯、歯茎は除きます。そして残った部分の中で上顎の部分だけに着目します。この部分は「口蓋」(こうがい)と呼ばれていますが、それはさらに前から「硬口蓋」「軟口蓋」「口蓋垂」(こうがいすい=いわゆる「のど〇んこ」)に分けられます。それぞれ「硬い」「軟らかい」「垂れている」部分と易しいことばにしてみると覚えやすいと思います。

 

(3) 残った赤字の部分を分けて覚える➁

次に残った部分の「舌」にあたる部分に着目します。すると舌は前から「舌尖」(ぜっせん)、「舌端」「前舌」「後舌」「舌根」という部分に分かれています。名前の「舌」の位置がそろっていないので少し面倒ですが、「尖っている」「端っこ」「前」「後ろ」「根っこ」と簡単なことばに置き換えると覚えやすくなります。

 

(4) 残った赤字の部分を分けて覚える③

そして最後に唯一残った一番後ろにある「咽頭壁」を覚えます。「咽頭の後ろにある壁」と表現すれば覚え易いでしょう。

 

いかがでしたか。このように数が多い物はある程度似たもの同士でまとめてから覚えると覚え易くなります。学生の反応も上々でした。

 

3. 音声器官名のテストをする

では、頭に入れてもらった音声器官名をどのくらい覚えているかテストをしてみます。まだ自信のない人はもう一度「2.」に戻って頭に入れてからテストを受けてください。

 

(1) 問題 次の①~⑫までの音声器官の名前を順に言ってみましょう。

※番号は「2.」で扱った順番についていますから、それを参考にして思い出してください。

 

(2) 答合せ (1)で言った音声器官名が正しいかどうか確認してみましょう。

いかがでしたか。比較的簡単に覚えることができたのではないかと思います。授業では問題に使ったパワポ(1)のマスクを①から順番にアニメーション機能で開けていったのですが、全学生が1つずつ楽しそうに元気よく答えを言う姿が見られ、全問が終わったところで大きな拍手が起こりました。思っていた以上に簡単に全問正解できたことが嬉しかったようです。

 

4. 音の分類との関連

前回の「P8. 音の分類を学んで発音を向上させる」の分類の仕方の2番目のものが次のようなものでした。

前回の段階では「なんだか難しい名前ばかりで…」と思ったでしょうが、今になって改めて見てみると、分類名、調音点、子音の名称などに使われている語句のほとんどに音声器官名が含まれていることがわかるでしょう。「分類」と「調音点」を見ると、それぞれの音はその音声器官の部分で音を作っているということがわかります。そして「該当する子音の名称」は、①どの「音声器官」で、②どのような「音の出し方」をしているかという2つの要素を組み合わせた名前になっていることがわかります。なお、一番下の「声門」だけは今回の音声器官名には出てきていません(教科書の図にもありません)。

 

<まとめ>

以上で、音声器官を学んで発音を向上させるという学習を終わります。音声器官の名称をただ覚えるのではなく、それぞれの音をどの部分でどのように出したら正確な音が出せるのかという知識を習得することができたのではないかと思います。ぜひ英語の音を発音するときはその音を出す音声器官にも注意してその音を発するようにしてみてください。

 

【シリーズ完結にあたって】

今回をもって、<自分の発音に自信がない人用>音声学視点による第2特別シリーズ「英語の発音は練習次第で上手になる!」は終わりです。執筆にあたっては、できるだけ内容に信用性を持たせることと、みなさんへのわかりやすさを両立させるために、項目及び内容構成と例文の多くは筆者が大学の「英語音声学」で使っていた竹林滋・斎藤弘子著『新装版 英語音声学入門』(大修館書店)を利用させてもらいつつ、実際の説明は筆者独自の表現で書いてみました。そのため各ページの内容が多くなって読むのに疲れたと思いますが、できるだけ詳しくわかりやすく説明するためだったということをご理解いただければと思います。

 

他のシリーズもそうですが、説明を読んで内容を理解しても、実際に自分で言えるようにならないと意味がありません。そのためにできるだけ取り組みやすそうな易しい単語や例文を示したつもりですので、どうぞ何度も練習して、それぞれのコーナーで示されている技能を習得してください。

 

「英語の発音は練習次第で上手になる!」

 

これは中学生に34年間、高校生に7年間、大学生に2年間発音指導をしてきた筆者が自信をもって言えることです。英語の発音に自信が無い人もぜひがんばってください!

 

元に戻る