「英語の発音は練習次第で上手になる!」シリーズの最後の2回となる第8回と第9回は、英語らしい発音を身に付けるために音声学的知識からそれを支えようという内容です。もちろん、「音声学的知識」といっても単に音声学に関する難しい知識を詰め込むような話ではありません。読んだ人が「なるほど!」「そうだったのか!」「発音のことがわかりやすくなった!」と思ってもらえるような内容にしたつもりです。
その第1弾である今回はこれまでに学んだ英語の音をより包括的にまとめた音の分類です。例えば、日本人にとって発音が難しいとされる「L」と「R」のちがいや「B」と「V」のちがいは下や唇の位置のちがいによるものと説明されることがありますが、そもそもそれぞれの2つは音の出し方(つまり「種類」)が異なるのです。そのようなことを易しく説明します。
1. 母音と子音
英語にかぎらず多くの言語には「母音」と「子音」があることは知っていると思います。例えば、日本語ならひらがなやカタカナの「あ、い、う、え、お」が母音を表す文字(母音字)でそれ以外が子音を表す文字(子音字)とされています。ただ、日本語の子音字は発音したときに必ず母音が伴うので(例:かきくけこ=ka, ki, ku, ke, ko)、正確に言えば純粋な子音字とは言えません。一方の英語ではアルファベットの「a, e, i, o, u」が母音字でそれ以外が子音字とされています。また、英語でも子音字である y は語中や語尾では「アイ」や「イ」という母音字としても使われるので、単品の文字を見て両者の間に線を引くのはそれほど簡単ではありません。
では、母音と子音はどう区別したらいいのでしょうか。これについては、筆者が大学の「英語音声学」の授業で使っていた『新装版 英語音声学入門』(大修館書店)のp.12に次のように定義されています。
・母音:呼気が口腔内において何の妨害も受けずに自由に流失して生成される音である。
・子音:呼気が口腔内において調音器官によって何らかの妨害を受ける音である。
(注:表現を統一するために筆者が一部の表現を変えてあります)
上記について少し補足します。ここで言う「呼気」とは、喉を通ったときに何らかの音声にされた息のことを指します。「口腔内」とは口の中のことです。「調音器官」とは、舌、歯、歯茎、上顎などの個々の音を作り出すときに使われる部位のことです。これらは次回の「P9. 音声器官を学んで発音を向上させる」で詳しく解説します。
補足を踏まえて上の定義を易しく言うと次のようになるでしょうか。
・母音:喉で作られた音が口の中のどの部分にも邪魔されずにそのまま出てきた音
・子音:喉を通った息が口の中のどこかの部分で音声化されて出てきた音
これでもわかりにくいと言う人は、日本語の「あかさたなはまやらわ」を口の中の動きを意識しながら言ってみるとわかると思います。ただし、「あ」以外は母音を付けずに発音し始めた時点の子音だけを出すようにしてください。
あ…喉で「あ」と言った後はそれがそのまま外に出てきます。
か…舌の奧と上顎の奧の間でためた息を一気に解放するようにして作っています。
さ…上下の前歯の間でこするようにして作っています。
た…舌先上部と上顎上部の間でためた息を一気に解放するようにして作っています。
な…舌先上部と上顎上部の間で作った音を一気に開放するとともに一部を鼻から抜くようにして作っています。
は…舌の上全体と上顎全体の間をこするようにして作っています。
ま…上下唇の間でためた息を一気に解放するとともに一部を鼻から抜くようにして作っています。
や…舌の奧と上顎の奧をかなり近づけて一気に開くようにして作っています。
ら…舌先を上顎に付けて一気に放すようにして作っています。
わ…唇を丸めて一気に開くようにして作っています。
どうでしょうか。確かに「あ」は喉で作った音がどこにも邪魔されずにそのまま出てきますよね。それに対して残りの音はすべて口の中のいろいろな部分を動かしてそれぞれの音ができてから出てきています。
2. 母音の分類
実は、一口に「母音」と言っても言語によっていろいろな母音があり、それらをすべて網羅するのは大変です。そこでここでは英語の母音にかぎってお話しします。まずは次の母音の分類表を見てからその下の説明を読んでください。右側の実際の音を見ると、実に多くの異なった母音があることがわかります。
※『新装版 英語音声学入門』(大修館書店)p.19 表1
(1) 大分類:強母音と弱母音
英語には、強くはっきり発音する「強母音」と弱くあいまいに発音する「弱母音」があります。そして、2つ以上の母音が離れて存在する単語では、そのほとんどに強母音と弱母音があります。それぞれの単語を母音の強弱に注意して発音してみてください。ポイントは、弱母音を短く、弱く、適当に発音することです。
【例】赤字…強母音、青字…弱母音
・city
・edition
・banana
・lemon
・about
・popular
上記の例からわかることは、単語の中でストレス(強勢=日本では「アクセント」と呼ぶ)のあるところは強母音、そうでないところは弱母音であるということです。つまり、英語の単語を発音するときはストレスのある母音だけを強くはっきり言って残りの母音は弱くあいまいに言うことが肝心だということです。それを日本語を発音するようにすべての母音を同じ強さと明瞭さで言ってしまうと”ジャパーニーズ・イングリッシュ風”発音になってしまいます。
(2) 中分類:抑止母音と解放母音
上の分類表では、強母音が「抑止母音」と「解放母音」の2つに分けられています。これを中分類としてみます。引用書籍にはそれぞれの定義はありませんが、用語の意味と例としてあげられている音から次のように説明できそうです。
・抑止母音:喉で作られた音声を口の中にとどめる(抑止する)ように短く発音する音
・解放母音:喉で作られた音声を息を外へ放つ(解放する)ように長く発音する音
これらが具体的にどのような音なのかは次の小分類の具体例で見ていくことにします。
(3) 小分類:短母音と長母音・二重母音・三重母音
上の分類表で示されている最も小さな分類で、短母音、長母音、二重母音、三重母音の4つがあります。それぞれの単語を母音の部分に注意して発音してみてください。
① 短母音:強く短く発する音
give, bed, back, not, cut, foot
② 長母音:強く長く発する音
see, father, water, food, turn
③ 二重母音:2つの異なった母音を連続して発する音
make, like, voice, how, home, use, fear, care, poor, part, horse
※home の o は「オウ」、use の u は「ユウ」、part の ar は「ア+r」、horse の or は「オ+r」
④ 三重母音:3つの異なった母音を連続して発する音
pure, fiire, hour
※pure の ure は「ユウァ」、hour の our は「アウァ」
3. 子音の分類
子音の分類方法はその視点により複数存在します。筆者が最終的に示したいのは3つ目のものなのですが、参考までにあと2つ先だって紹介しておきます。各一覧は筆者が大学の「英語音声学」の授業用に作ったパワポ画面の一部です。なお、それらの画面の(赤字)の部分は、もともとは空欄にしてあって学生に埋めてもらうようにアニメーション設定(答え合わせのタイミングで出す)しておいた場所です。
「P3. 子音を正確かつ慎重に発音する」でもふれたように、子音には声帯を振動せない「無声音」と声帯を振動させる「有声音」があります。上の表はその視点で分けたものです。
子音はその音を出す場所(調音点)で分類することもできます。なんだか難しいことばが並んでいますが、これらの用語については次回の「P9. 音声器官を学んで発音を向上させる」で説明します。
この表がぜひみなさんに理解してもらいたいものです。これは子音を音の出し方で分類したものです。以下、それぞれについて例をあげて説明しますので、それぞれの単語を音の出し方に注意して発音してみてください。
① 閉鎖音:調音点(それぞれ異なる)で息をためて一気に破裂させるように出す音。「破裂音」とも言う。
pen, book, talk, day, kind, gas
② 摩擦音:調音点(それぞれ異なる)で息をこするようにして出す音
five, very, thank, they, see, zoo, shine, usually, hot
③ 破擦音:調音点(舌先の上部と上顎の前部)で息をためて破裂と摩擦の中間のようにして出す音
check, gym
④ 鼻音:調音点(それぞれ異なる)でためた息の一部を鼻から抜くようにして出す音
make, name, ring
⑤ 側面音:調音点(舌先と上顎の前部)で舌の横をすり抜けるようにして出す音
large
⑥ 半母音:調音点(それぞれ異なる)で母音に少し邪魔をして出す音
read, yes, woman
【冒頭の投げかけへの回答】
本ページの冒頭で「L」と「R」、「B」と「V」は音の出し方がちがうとしました。それは「L」は側面音で「R」は半母音、「B」は閉鎖音で「V」は摩擦音というちがいがあるからです。
<まとめ>
いかがだったでしょうか。大学の授業で扱うような専門的な内容なので多少難しかったかもしれませんが、説明をよく読んでもらえれば理解できたのではないかと思います。また、冒頭でも述べたように、音の分類に関する知識は実際に英語の音を発するときにどのようにしてその音を出すのかということを手伝ってくれることがわかったと思います。