die の ing形はなぜ dying なのか?

die の他には lie もよく使う動詞ですが、これらがなぜ dying や lying になるのかを論理的に説明できる人はそれほど多くないと思います。何度も言うようですが、「ie を y に変えて、ingをつける」は方法を説明しているだけで、なぜそうするのかという理由を説明しているものではありません。今回は、動詞の ing形のつづりの謎の第3弾(最終回)としてこれを取り上げます。

 

毎度のことですが、「つづりと発音に関すること」の一項目なので、今回の問いの答えもつづりと発音の関係から導き出されます。そこで、making や sitting と同じように、「なぜ dieing ではダメなのか?」というところから始めます。

 

die + ing = dieing(×)

 

これも一見すると良さそうですが、英語のつづりとして困る部分があります。それは iei の部分です。実は、英語にはこのようなつづりが無く、こうつづられると何と読んだらいいかわからなくなってしまうのです。そこで、次に make + ing = makingのような発想でこれをいじってみます。

 

・dieing の e を取って diing(×)

・さらに i を取って ding(×)

 

上記の2つがダメなのは、diingでは ii というつづりが英語には存在しないのと、dingでは「ディング」という発音になってしまうので、もはや die の ing形とは思われなくなってしまうからです。

 

では、「ダイ(イ)ング」と読んでもらうにはどうしたらいいでしょうか。つまり、iei にしないで、ding とつづって「ダイ(イ)ング」と読めるようにするには、をどのようなつづりにすればいいかということになります。

 

の部分の発音は「アイ」ですね。ですから、ie や i 以外に「アイ」と読め、かつ ing をつけられる文字を探せばいいわけです。そこで、「3. baby の複数形は…」と「4. play の三単現が…」のページに出てきた、ある文字に着目してみましょう。何だと思いますか?

 

そうです。それは y です。y は語末にあると「イ(-)」という発音になりますが、語の途中で、その前に子音字があると「アイ」と発音されることが多いということを確認しました。cycle や type がその例ですね。そこで考え出されたのが、ie を y に変えるというつづりです。こうして die + ing → dying ができたのです。

 

なお、最後に過去に取り上げたこととの関連で、面白い事実をまとめてみます。

「3. baby の複数形は…」の説明の中で、「語末の y と ie は発音とつづりの関係からすると互換性がある」としました。それがここで別の形で生きているのです。つまり…、

  

・「baby の複数形は、y を ie に変えて s をつける」

・「die のing形は、ie を y に変えて ing をつける」

 

上記では、上下で y と ie の発音が異なっていますが(「イ(-)」と「アイ」)、つづりの上では互換性があるということが改めてわかります。

 

いかがだったでしょうか。ここまで複数形や三単現の (e)s のつけ方、動詞の ing のつけ方を例に、発音とつづりの関係を見てきました。それらは、私たちが学んで来た過程では「〇〇の場合は△△にする」という“方法”を教わっただけで、なぜそのようにする必要があるのかという“理由”までは教わって来なかった人が圧倒的に多いと思います。

 

そういうことが度々あると、「英語のつづりにはルールがないので、とにかく暗記するしかない」と思い込んでしまいます。しかし、例外が少なくないとはいえ、英語のつづりにも論理的なルールがあるのです。そうでなければ、英語話者が目の前に次々と現れる単語を一瞬のうちに判断して読めるわけがありません。英語話者もすべての単語の読み方を頭に入れてあるのではなく、発音とつづりのルールを元にそれらを読んでいるのです。英語を外国語として学ぶ私たちも、できるだけそこに近づきたいですね。(11/13/2018)

 

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英語教師の方々へ

今回取り上げた話は、発音とつづりの関係を教えるものとしてはかなりレベルの高いものです。故に授業では、発音とつづりの関係を教える最終段階のものとして取り上げることをお勧めします。上記の説明は、できるだけ筆者が授業で扱った際の話の流れを再現したつもりですが、「アイ」という発音ができる別の文字(y)を引き出すのに時間がかかります。実は、この話を英語教師を対象にした研修会や講習会で取り上げることがあるのですが、先生方でも答えを出すまでに結構時間がかかります。ですから、ご自身の授業で扱う場合は、慎重に指導過程を組んでください。