私たち日本人はアメリカ英語に慣れています。日常生活で見聞きする英語のほとんどはアメリカ英語です。その主な理由は第二次大戦後の占領政策の中心となったのがアメリカだったからです。アメリカは日本を植民地としない一方で、自国の文化を「自由な国」の代表として日本に広めようとし、日本人はそれをそれまでになかった素晴らしいものとして憧れを持って迎え入れました。英語教育においてもほぼアメリカ英語一辺倒と言っても過言ではありません。教科書の登場人物は多様性を確保するためにいろいろな国の出身者が出てくるようになりましたが、彼らが話している英語は語彙、つづり、発音ともにアメリカ英語です。それは生徒たちに余計な混乱を起こさせないための配慮なのでしょう。
一方、英語の“本家”はイギリスなのはご存じのとおりです。イギリス英語はアメリカ英語に比べると私たちになじみがありませんが、映画やテレビを見ていると普段聞き慣れない語彙や発音に出会うことがあり、そのような場合はたいていがその番組がイギリス製であったり出演者がイギリスまたはイギリスの影響が強く残っている国(イギリス連邦)の出身者であったりします。言語としての英語をしっかり理解するにはやはり本家のイギリス英語を改めて学んでおくことが大切であろうと考え、それを「アメリカ語とイギリス英語のちがい」として浮き彫りにすることにしました。
その第1弾は語彙です。普段なじみのあるアメリカ英語の語彙とは大きく異なるものを中心にまとめてみました。
(1) 同じものを表す異なる語彙
映画やドラマを見ていると、同じものを表しているのに異なった単語を使っているシーンに出くわします。これもその多くはアメリカ英語とイギリス英語のちがいからくるものです。中にはそのために登場人物同士で意思疎通が一瞬できないという設定でそのちがいを際立たせている場面があったりもします。ここではそのような同じものを表す異なった語彙について主なものをまとめておきます。
それぞれの語彙は「日本語」:「アメリカ英語」-「イギリス英語」の順に表記します。
・アパート:apartment - flat
・エレベーター:elevator - lift
・サッカー:soccer - football
・鉄道:railroad - railway
・地下鉄:subway - underground/tube
・高速道路:freeway/expressway - motorway
・歩道:sidewalk - pavement
・運転免許証:driver's license - driving licence ※licence のつづりもちがう
・ガソリン:gas/gasoline - petrol
・クッキー:cookie - biscuit
・お持ち帰り:takeout - takeaway
・酒場:bar - pub
・セーター:sweater - jumper
・携帯電話:cell phone - mobile phone
・電話をかける:call - ring
・郵便:mail - post
・休暇:vacation - holiday
・映画:movie - film
・秋:fall - autumn
・ごみ:garbage/trash - rubbish
以上を見ると、私たちになじみのある語彙は圧倒的にアメリカ英語が多いことがわかります。ただ、中にはイギリス英語の方が根付いている語彙もありますね。また、リストのほとんどが名詞であることも面白いですね。動詞や形容詞などは両者にそれほど大きなちがいはないようです(中にはありますが、たいていはあまり良い意味のものではないのでここでは取り上げません)。
(2) 別のものを表す同じ語彙
筆者が中学生のとき、ある学習雑誌に「アメリカでは建物の1階は first floor と言うが、イギリスでは ground floor と言い、イギリスで first floor と言ったら2階を指す」という説明が書いてあったのを読んで驚いた記憶があります。そのときにアメリカ英語とイギリス英語のちがいに興味を持ちました。以下、そのようなものを取り上げます。
それぞれの語彙は、「語彙」:「アメリカ英語の意味」-「イギリス英語の意味」の順になっています。
・first floor:1階 - 2階
・pants:ズボン(英 trousers)- 下着(米 underwear)
・chips:ポテトチップ(英 crisps)- フライドポテト(米 French fries)
・subway:地下鉄 - 地下道
本項目の冒頭に書いたことですが、なぜイギリスでは1階を ground floor、2階を first floor と言うのでしょうか。筆者の想像としては、1階には床が無く最初の床が2階の床だったからと思っていましたが、それはちがっていたようです。イギリスでは地上階は「0階」とし、そこから上を1階、2階と数えていく習慣があるからだそうです。まあ、筆者の想像も結果的には同じことを表していると言えなくもない気がしますが…。
次回はアメリカ英語とイギリス英語のつづりのちがいを取り上げます。