「7. これを読めば the の使い方がわかる①:基礎理解編」では、定冠詞 the とはどういうものか、そしてその基本的な使い方はどういうものなのかということを説明しました。第2弾にあたる今回は、教科書や日常の生活でよく見かける英文の中にある the が、どういう理由で使われているのかを明らかにしようと思います。ただ、参考書や文法解説書によくあるような、「~の場合は付ける」「~の場合はつけない」というような個々の場合のことを列挙するのではなく、「7.これを読めば…」でも取り上げた、次の基本的なルールを適用しさえすれば、論理的にそれを説明できるということを示します。
「the は話者の間で共通理解が得られている普通名詞に付く。」
1. 論理解説
最初に、電車に乗っているとよく耳にする車内アナウンスを取り上げてみます。次の英文は、都内を走っている東京メトロ有楽町線の車内アナウンスです。①~④の空所のどこに the が入るでしょうか。
( ① ) next stop is ( ② ) Tatsumi, Y-23. This train is bound for ( ③ ) Hoya on ( ④ ) Seibu Ikebukuro Line.
※次の停車駅は「辰巳」です。この電車は西武池袋線の「保谷」行きです。
上記のうち、最も簡単なのは②と③です。いずれも後ろにある名詞が駅名で、固有名詞ですから the は付きません。
次に、①は「次の停車駅」ということですが、その電車に乗っている人はみな同じ方向に進んでいます。つまり、「次の…」と言えば誰もが同じ駅に到着します。したがって、誰にとっても同じ駅、共通理解が得られている駅で、しかも stop(停車駅)は普通名詞ですから、the が付くことになります。
最後の④は少々迷うでしょう。「西武池袋線」を固有名詞と考えるかどうかが難しいからです。実際の英語を見てください。Seibu は「西武鉄道」の会社名ですから、固有名詞です。Ikebukuro は「池袋」という駅名であり、地名でもあります。したがって、これも固有名詞です。では、最後の Line はどうでしょうか?これは大文字で書かれてあっても、「線」という普通名詞です。
ここで大切なのは、この3つの単語でできている名詞句と the の関係です。「7. これを読めば…」でも説明しましたが、名詞句の前にある the は名詞句の一番後ろにある名詞にかかります。すると、ここでは the は Line にかかるわけです。ということは、「話者の間で共通理解が得られている普通名詞」になるので、the が付くというわけです。
以上の論理的説明が正しいかどうかは、別のアナウンスを読んでもわかります。東京メトロ有楽町線では、東池袋駅を出て池袋駅に近づくと、次のような乗り換え案内の車内放送がありますが、もちろん対象となる鉄道路線の名前にはすべて the が付いています。
The next stop is Ikebukuro, Y-9. Please change here for the Marunouchi Line, the Fukutoshin Line, the JR Lines, the Tobu Tojo LIne and the Seibu Ikebukuro Line.
ただし、電光掲示板では、the がいちいち出てくると視覚的に目障りなので、the が省略されて表示されることもあります。なお、実際の放送は、電車の中や YouTube(「東京メトロ、英語アナウンス」で検索)で聞いて確認してみてください。
2. 問題演習と解説
次に、鉄道のアナウンスが出てきたところで、やや難しい問題をやってみましょう。ただ、これも最終的には論理的に答えを出せる問題です。
(問)次の東京駅を出発する東海道新幹線の英語アナウンスの空所①~④に the が入るか答えなさい。
( ① ) Ladies and gentlemen. Welcome to ( ② ) Shinkansen. This is ( ③ ) Nozomi superexpress bound for ( ④ ) Hakata.
まず、一番簡単なのは④ですね。「博多」は駅名で固有名詞ですから「×」です。
①は「みなさん」という呼びかけに使うことばですが、誰か特定の人に言っているわけではありません。つまり、普通名詞ではありますが、話者の間で共通理解が得られている名詞句ではないので、これも「×」です。
次に③ですが、Nozomi(のぞみ号)という名前があるので、単独の固有名詞の前だと思うとまちがいです。それは、実はここでは Nozomi superexpress(のぞみ超特急)という名詞句の前になるからです。つまり、theは「超特急」という普通名詞にかかっています。そしてそれは、誰もが知っている、つまり共通理解が得られている存在の普通名詞ですから、the が付きます。なお、もしこれが Superexpress Nozomi(超特急のぞみ号)という語順の表現であれば、Nozomi という固有名詞にかかるので、the は付きません。
最後に②です。これが最も難しい問題です。「そう?『新幹線』という固有名詞なんだから、当然 the は付かないでしょ。」と多くの人が思うでしょう。しかし、答えから先に言うと、実際のアナウンスでは the が付いているのです。その理由は、鉄ちゃん(鉄道マニア)に聞くと、解決するかもしれません。ちょっと遠回りですが、鉄ちゃんに「新幹線」とはどういうものなのかを聞いてみましょう。
「『新幹線』というのは、『幹線』に対して、新しく作られた『幹線』のことを言うんだよ。『幹線』とは、東北本線などのような大動脈の路線のこと。ここで言う『幹線』とは、東海道本線を指す。東海道新幹線はそれに沿って作られた新しい幹線だから、『新幹線』と言うんだよ。」
この説明に従えば、「幹線」は main line、「新幹線」は「新・幹線」new main line ということになります。つまり、東海道新幹線は Tokaido New Main Line と英訳できます。ということは、最後に line という普通名詞がある名詞句なので、the が付くというわけです。つまり、「新幹線」は固有名詞ではなく、普通名詞扱いだったというわけです。
同じような例は、「読売新聞」のタイトルにも表れています。購読している人は見てみてください。日本語のタイトルの下に The Yomiuri Shimbun と表示されているのは、Shimbun が Newspaper を、つまり普通名詞を表すことによります。
3. まとめ
ここまでのことをまとめてみましょう。the が付く基本的なルールは?
「the は話者の間で共通理解が得られている普通名詞に付く。」
この、たった1つのルールを覚えていれば、新たに何かに出会った時に、それを当てはめれば the が入るかどうかがわかります。文法書の細かい説明を覚える必要はありません。(11/19/2018)
今回の説明は、筆者の生徒たちの日常生活でよく目にする(耳にする)英語を教材に使っています(筆者の学校では、多くの生徒が公共交通機関を利用して通学しています)。実は、ここが大切なところです。例文を選ぶ際に、教科書や他の英語の本や文法解説書などから拾ってきた英文を使うことが多いと思いますが、大抵の場合はそれらに生徒は興味・関心を示しません。ところが、自分の日常生活に関係することを教材にすると、急に目が輝きます。しかも、今回は日頃何気なく耳にしていることなのに、つきつめて分析したことはないであろうというところを突いています。ですから、「the は付いてる!」「付いてないよ!」などと、あいまいな記憶を元に多くの生徒が発言をします。そして、話題に食いついてきたところで、生徒の発言を拾いながら1つ1つ丁寧に解説をし、生徒の頭の中を整理していってあげると、最終的には生徒の方から正解が出てきます。
先生方の生徒はどのようなことに関心があるでしょうか。芸能人や最近話題になったことの中に、生徒が食いついてきそうな英文や表現があったら、それを利用してみてください。