前置詞に関する話題の第3弾(最終回)です。今回の話を読んでいただければ、前置詞というものがどういうもので、何を知っていれば使いこなすことができるかがわかっていただけるでしょう。
in, on, at などと共に、英語学習のごく初期から登場し、英文にとっては欠かすことのできない存在である to と for。英文に使われているのを見れば特に違和感をいだくことなくスッとやり過ごせるのに、いざ自分で使おうとすると迷うことがあります。具体的には次のような場合です。
① I bought a present ( ) my mother.
② I gave a present ( ) my mother.
上記の2つの文の空所に to か for のどちらかを入れなさいという問題があった場合、自信を持って正解を答えられるでしょうか。そして、その理由を論理的に説明できるでしょうか。今回はそれを解決します。
まず最初に、解決への手がかりとして、次のような行き先表示を見てみます。
・For Tokyo
・To Haneda(Tokyo)
いずれも「~行き」という意味で使われていますが、for と to の場合があります。そのちがいは何でしょうか?
では、ヒントとして2つがどこに使われているかを見てみます。
・For Tokyo…東海道新幹線の大阪駅登り方面の行き先表示
・To Haneda(Tokyo)…大阪伊丹空港の出発便表示
「ああ、電車が for で、飛行機が to か!」と思った方は残念。一歩前進しましたが、それでは答えになっていません。「一歩前進」というのは、電車と飛行機のちがいに気づいたところです。そこで、2つの交通機関の「動き」に目を向けてみてください。
東海道新幹線は、大阪駅を出発した後に東京駅に着くまでにどのような動きをするでしょうか?一方の飛行機は、伊丹空港を離陸した後に羽田空港に着くまでにどのような動きをするでしょうか?
そうですね。新幹線は東京駅に着くまでに他にもいくつかの駅に停車しながら走っていきます。一方、飛行機は羽田空港までどこにも降りずに飛んでいきます。このちがいが for と to に表れているのです。
そうです。for と to には次のような「本来の意味」があるのです。
・for…「~に向かって」という方向を表す
・to…「~に着いて」という到達点を表す
つまり、それぞれが次のようなことを表しているのです。
・For Tokyo…東京方面に向かう。
・To Haneda(Tokyo)…羽田空港が唯一の目的地である。
ですから、逆に電車に "To~" とあったら、その電車は途中どこにも止まらない特急であり、飛行機に "For~" とあったら、その飛行機は途中でどこかに降りる便だとわかります。
そこで、最初の問題に戻ってみましょう。ここまでの説明で正解を出せた人もいると思いますが、もう少し説明を加えてみます。それは2つの文の動詞が表す動作と対象となる相手の関係です。
①の bought a present は、プレゼントを買っただけ。
→この時点では my mother に心は向かっていますが、プレゼントは届いていません。
②の gave a present は、プレゼントを渡した。
→その時点ですでに my mother にプレゼントが届いています。
これでもうおわかりですね。そうです。この2つの文の動作と対象となる人の間にある前置詞は、以下のようになります。
① I bought a present for my mother.
② I gave a present to my mother.
しかも、どうして上記のような答えになるのかを自信を持って説明できるようになったと思います。
この to と for の使い分けは、何も物理的な到達点と方向ということだけでなく、感覚的なことにも適用されます。例えば、以下の文の空所には、to と for のどちらが入るでしょうか?
③ He is kind ( ) me.
ここで「be kind to という連語があるよね」と言ってしまっては元も子もありません。それを知らなかったとして、論理的に考えてみましょう。
これを「彼は自分に対して親切だ」という和訳だけで考えると、答えの判断が難しくなります。なぜなら、"( ) me" を「私に対して」と解釈すると、どちらだかわからないからです。そこで、この文の内容として、彼の親切が自分に「向かっている」のか「届いている」のかを考えてみます。
実際に「親切だ」と感じているわけですから、彼の親切心は自分に届いているのです。したがって、答えは to ということになります。
次に、もう少しやっかいな例を見てみましょう。次の( )には to と for のどちらが入るでしょうか?
④ The movie was interesting ( ) me.
このような表現でどちらを入れたらいいかはよく生徒からも質問を受けます。まず答えから言うと、「to と for のどちらも入ります」です。
このように言うと、「え? だって、<It is interesting for me to 動詞.> という文があるから for でしょ。」という声が聞こえて来そうです。しかし、ネット上で④と同じ使い方の例文を検索してみると、このような文では to の方が for よりも約5倍多く使われています。これをどう考えたらいいでしょうか。
これに対する"筆者の説"は以下の以下のとおりです(”筆者の説”であるので正しいかどうかは不明です)。
・「私にとって面白い」と言う場合は、その面白さが”自分に届いている”ことの方が多い。したがって、到着点を表す to が用いられることが多い。ただし、「面白そうだ」というくらいであれば for を使うこともあるにちがいない。
・上記の例文のように「面白かった」と過去のことを言う場合は実際にその面白さは自分に届いていることになるから、この場合は to とした方が言いたいことが伝わる可能性が高い。
・しかし、It is interesting for me .... という文型もあるため、その for me に引っ張られて interesting, fun, exciting などの対象物に対する気持ちを表す形容詞の場合に for me としてしまう傾向がある。
この説(分析)は、これまで述べてきた to と for のそれぞれが持つ元々の意味に照らし合わせて考えたものです。
このような視点で、すでに知っている英文や教科書の本文などに出てくる to と for が使われている文を見てみてください。ここで述べたことが正しいということがわかるでしょう。
いかがだったでしょうか。3回にわたって前置詞の使い方について説明をしてきました。前置詞は日本語訳を覚えるのではなく、それぞれが持つ本来の意味を理解できれば、それほど難しいものではないということがおわかりいただけたと思います。他の前置詞については、今では参考書の中に前置詞の「本来の意味」が図解入りで載っているものもありますし、ネットでも紹介されていますので、それらを参考になさってください。(11/17/2018)(11/27/2021追記)(1/21/2023微修正)
今回の話は、順を追って生徒に話していけば、理解させるのにそれほど苦労はしません。ただ、過去のページでも述べたとおり、一方的に先生が話していったのでは、本当に生徒が理解してくれたのかはわからなくなってしまいます。各ステップにおいて生徒に質問を投げかけ、答えを引き出しながら進めるようにしてください。
前置詞は、簡単なようでいて、使い慣れるのに少し時間がかかります。一度理解させられたからといって安心するのではなく、新しい前置詞が出てきたところで何度も使い方を確認してみてください。
なお、ここまでの3回は前置詞そのものに焦点を当ててきましたが、後置修飾として用いられる前置詞句の方がむしろ初学者には難しいので、その指導法について別のところで改めて取り上げる予定です。