米国語と英国英語のちがい(その2):つづり編

アメリカ英語とイギリス英語のちがいは、主に語彙、つづり、発音に現れています。今回は「つづり」のちがいを見ていきましょう。語彙のちがいについては「アメリカ英語とイギリス英語のちがい(その1):語彙編」をご覧になってください。なお、発音のちがいは紙面に表しにくくこのコーナーの趣旨と異なるので、ここでは扱いません。

 

上記の語彙のページでも述べましたが、私たち日本人が普段の生活でふれる英語はほとんどがアメリカ英語です。これはつづりの場合もそうで、中学校・高校(最近は小学校を含む)で出会う英語のつづりは基本的にアメリカ英語のものです。学習指導要領では長年「標準的な英語」としか規定されていませんが、どこの教科書会社も慣習にしたがってアメリカ英語のつづりを採用しています。

 

しかし、特に高校生以上の多くの人は経験があると思いますが、イギリスの会社が発行した副読本などではイギリス英語のつづりが採用されているので、初めてそれらを読んだときに「あれっ?この単語ってこんなつづりだっけ?」と思ったことがある人は少なくないでしょう。例えば、color(色)が colour だったり、center(中央)が centre だったりといったものです。

 

ここではそのようなアメリカ語とイギリス英語のつづりのちがいをまとめてみます。

 

以下のリストでは「アメリカ英語」-「イギリス英語」の順に示します。 

 

(1) 主に母音字に関するもの 

① o/ou

・color -  colour

・favorite  -  favourite

② -er/-re

・center  -  centre

・theater  -  theatre

③ 削除/e

・judgment  -  judgement

・aging  -  ageing

④ その他

・gray  -  grey 

 

(2) 主に子音字に関するもの

① z/s

・realize  -  realise

・organization  -  organisation

② s/c

・defense  -  defence

・license  -  licence

③ l/ll

・traveling  -  travelling

・counselor  -  counsellor

④ その他

・check  -  cheque

・program  -  programme

 

【コラム】なぜこのようなちがいがあるのか?

では、元をたどれば同じ言語なのに、両者にはどうしてこのようなちがいがあるのでしょうか。なぜ後から発展したアメリカ英語では元のイギリス英語とは異なったつづりが使われるようになったのでしょうか。それはアメリカとイギリスの文化のちがいから来ていると思われます。なお、これから述べることは筆者の私見で、文献等を調べてまとめたものではないので、その点はご了承ください。

 

まずイギリスは伝統と格式を重んじた文化であるので、外国語から入ってきた語彙も含めて以前から使われている伝統的なつづりをそのまま使い続けようとしています。長年使ってきているものですし、いまさら変える必要もないということでしょう。

 

対するアメリカの文化はいわば「適正化」と「簡便化」がキーワードだと考えられます。“移民の国”であるアメリカには文字通り多種多様な文化背景をもった人々がいます。その人たちが納得できる共通のルールが必要です。そうすると、イギリス英語の中にはルールどおりではないつづりがあり、それらをルールどおりに直したのが上記のちがいに現れています。これが「適正化」です。また、できるだけ他の語彙と同じようなつづりにして読みやすくするという作業も行われたようです。これが「簡便化」です。

 

① 適正化と思われるもの

・o/ou

→ -our の部分は -or と同じ発音であるのに、そのままだと -our のつづりの語(our, tour など)と同じ発音に読まれる可能性があるので -or にしたのでしょう。

・er/re

→ -re は -er と同じ発音であるのにそのままだと「レ」と発音されそうなので -er にしたのでしょう。

・削除/e

→ -e で終わる動詞にそのまま -ing を付けると -ei の部分が「イー」と読まれてしまうので、削除したのでしょう。

※ make → making も同じです。

・z/s

→ -s は「ス」と発音される可能性があるので、発音通りの -z としたのでしょう。

・l/ll

→ 最後の子音字を重ねると、直前の母音字に強勢が置かれてしまう(travelling、counsellor)ので、そうならないようにわざわざ重ねない方にしたのでしょう。その意味では次の簡便化とも言えます。

※ begin → beginning、forget → forgettable のように元々最後の母音字に強勢があるものは、それ以上の長さの語にする場合は最後の子音字を重ねます。

 

② 簡便化と思われるもの

・s/c

→イギリス英語では license は動詞として、licence は名詞として使われています。同じ発音であればそれらの使い分けは面倒なので、アメリカ英語では名詞の方に統一されたものと思われます。

※動詞と名詞で発音がちがうものはアメリカ英語でもそのままです。(例:advise - advice)

・その他

→ cheque は check と同じ発音なので後者に統一されたのでしょう。ただし、アメリカ英語でも「小切手」という意味を明確にしたい場合は cheque を用いています。

→ programme は program まででまったく同じ発音になるので最後の部分は省略されたのでしょう。