(3) 筆者が勧める映画

授業で「映画が英語の勉強にいい」という話を生徒にすると、必ずと言っていいほど「お勧めの映画は何ですか?」と問われます。この質問に対して、すぐに自分が考えるお勧め作品を具体的にいくつか言うこともできるのですが、それらの作品が相手に興味を持ってもらえるかどうかわからないので、たいていは次の3つのことを話します。

 

○何度も見る気になるような好きな映画がいい

○登場人物がゆっくりはっきり話している映画がいい

○スラング(隠語・略語・俗語)があまりない映画がいい

 

では、なぜそうのかを順に説明していきます。

 

① 何度も見る気になるような好きな映画がいい

「2.筆者が勧める映画の利用法」で紹介した方法によれば、英語学習の初学者や中級レベルの学習者が映画を利用するには、ある映画を何度も見ることになります。したがって、どんなに誰かが「この映画がいいよ」と言っても、それが自分の興味を引かないような作品であると見るのがつらくなりますし、結果的にお勧めの方法を実行できなくなってしまいます。

 

そこで、まずはある映画を先述した方法の「①日本語吹き替え版を見る」か「②英語版を日本語字幕ありで見る」のどちらかで見て、その映画が繰り返し見てみようと思う作品かどうかを確認してください。それで、「この映画なら何度見てもいいな」と思ったら、それを使ってみましょう。そういう作品が見つかれば、あと2つ残っている項目にあてはまらなくてもそこそこの成果をあげられるはずです。

 

もし、「好きな映画って言っても、特にないなあ…」という人は、“好きなジャンル”という点で作品をしぼってみてください。例えば、アクション、サスペンス、ホラー、SF、ラブストーリー、コメディー、歴史物、戦争物、スペクタクル…。おそらく、人によってジャンルの好みがあるはずです。ジャンルの絞り込みができたら、レンタルビデオ店でいくつか作品を見つくろってくるといいでしょう。過去にヒットした有名な作品であれば、大きな失敗はないと思います。

 

② 登場人物がゆっくりはっきり話している映画がいい

映画が究極の英会話教材であるというのは、ネイティブ・スピーカーの話すごく自然な英語を聞くことができるからでした。しかし、それは一方で、教科書準拠のリスニング教材や英語学習者向けに作られたリスニング教材のように、学習者のことを考えた語彙統制やスピード調整をしてくれていないことを意味します。つまり、いきなりいわゆるナチュラル・スピードの英語を聞くことになります。

 

この点について、中学生の頃から45年以上映画鑑賞を趣味にしてきた筆者の経験からすると、英語学習をすることを目的に見る映画としては明らかに不向きな作品があることも確かです。一番難しいのが、主人公(アニメの吹き替えを含む)がコメディー俳優である場合です。早口でまくしたてることが多いので、筆者の経験を持ってしてもわからないことが多く、英語字幕を見て初めて「へえ、そんなことを言っていたのか…」と思います。また、10代から20代くらいの若者が主人公の場合もそうです。たいていが早口で、友達同士でゴニョゴニョ話したり、仲間同士でしか通用しない隠語を多用したりするので、何と言っているかわからないことが多いです。

 

では、どんな作品がいいかと言うと、子供向けの作品がいいですね。それは子供がわかるような語彙でゆっくりはっきり話していることが多いからです。そうすると、おそらく多くの人がディスニー映画を思い浮かべると思います。筆者も基本的には賛成です。ただ、最近のディズニー映画は必ずしも子供向けとは限らず、むしろ大人の鑑賞を目的とした作品が多くなっています。また、コメディー作品、特にアニメのそれは、声優が有名コメディアンや早口を得意とする俳優であることが多く(だから、日本語吹替版では有名な芸人が使われています)、意外に難しく感じることが少なくありません。

 

お勧めはディズニーのクラシック映画です。つまりちょっと古めのアニメですね。具体的には、「ダンボ」、「白雪姫」、「シンデレラ」、「ピーターパン」、「不思議の国のアリス」などです。最近のディズニー映画を見慣れている人にとって、これらの作品は少々古めかしさを感じさせるかもしれませんが、英語学習という観点で見ると、とても使い勝手のよい作品です。ぜひ試してみてください。

 

③ スラング(隠語・略語・俗語)があまりない映画がいい

映画の台詞を隅々まで聞き取りたいという人にとって、この視点で映画を選ぶことはとても大切です。なぜかと言うと、ナチュラル・スピードで話される英語には、実際にはほとんど聞こえてこない(発音されていない)語や音がかなりあり、その部分は前後の聞こえた英語から推測しないといけないからです。あらかじめわかっている語彙や文法の知識を超える表現が多用されていると、聞こえない部分を推測することが難しくなり、そもそも聞こえた部分も何を言っているのか意味がわからないということが起こります。いわゆるスラングは、たいてい教科書や言語学習用のテキストには出てきませんから、多くの英語学習者にとって「?」と感じられてしまうので、できるだけそうした表現が出てこない作品がいいでしょう。

 

スラングが多用される作品は、筆者の経験からすると次のような作品です。

 

●若者が主人公の映画

●戦争映画

●コメディー映画

 

以上のジャンルの作品には名作も多く、筆者自身も大好きな作品がたくさんあるのですが、英語学習用という点ではあまりお勧めできません。

 

<筆者が勧める映画のジャンル>

では、この視点でどんなジャンルの作品がいいかというと、それは「SF映画」です。その理由は以下のとおりです。

 

○スラングがほどんどない

スラングはある時代や国・地域、主人公の世代などが反映されます。したがって、SF映画でスラングを使うと特定の地域や時代を表してしまうので、たいていはシナリオにそれがありません。もちろん、過去にタイムスリップする物語などでは、その時代や地域を限定させるためにスラングが使われることがありますが、元の設定としては未来が多いので、基本的な舞台で使われる英語にはスラングは使われません。

 

○文法的にしっかりした文が多い

SF映画では、主人公が科学者であったり、登場人物同士が元々は他人であったりすることが多いためか、使われることばがとても丁寧です。博物館などで学芸員さんが話してくれる場面や日本語で私たちが初めて会う人と話す場面を想像してもらうとわかると思います。特に、ロボットやアンドロイドは省略語が一切無い完璧な英語を話すことがほとんどです。一方、異星人などが登場する映画ではわざと変な英語が使われることがありますが(例えば、『スター・ウォーズ』のヨーダ)、それはご愛嬌でしょう。

 

○登場人物がゆっくり話すことが多い

なぜかはよくわかりませんが、登場人物の多くが比較的ゆっくり話します。もしかしたら場面が非日常で専門用語が多いからかもしれません。もっとも、これは作品や俳優によって大きくちがい、同じシリーズの映画でも比べてみると、かなりちがうこともあります。例えば、『スター・ウォーズ』シリーズでは、初期の3作品(エピソード4~6。特にエピソード6『ジェダイの帰還』)は聞き取りが楽ですが、その後の6作品(エピソード1~3、7~9)はそれほどではありません。

 

というわけで、あえて具体的な作品名はあげずに(『スター・ウォーズ』を除く)筆者の勧める映画についてお話ししました。要はみなさんが好きな映画なら何でもいいのです。何度も見て、台詞が頭に入って、それが口をついて出てくるようになればしめたものです。ぜひトライしてください!

 

(4) 一般誌でも紹介された映画を使った英語学習法 

今から20年以上前の1998年、一般誌『英語をモノにするためのカタログ98』に映画を英語学習に用いる方法を紹介した記事が載りました。それを次のページで紹介します。

 

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