It wouldn't be the same without you.「それはあなた無しでは同じでなかっただろう」?

今回の表現は、日常で気軽に使うものというよりは、少し気取った気分で使いたいときに便利な表現です。タイトルに使った It wouldn't be the same without you. は、「ロックの王様」(King of rock'n' roll)と呼ばれるエルビス・プレスリー(Elvis Presley)の同名曲から取ったものですが、そのままの表現や主語だけが異なる表現を映画やドラマなどでよく耳にします。

 

では、個々の表現の分析から全体の意味を把握してみましょう。主語の it はこの表現が発せられる直前の何かを指しています。「それ」または「そのこと」を意味します。wouldn't は would not、つまり will not の過去形ですが、「~ではなかっただろう」は実際には起こらなかったことを意味する仮定法です。the same は「同じ」という意味ですから、It wouldn't be the same までで「それは同じではなかっただろう」という意味になります。without は「~なしに」という前置詞ですから、without you は「あなた無しには」という意味になります。そうすると、全体としては「あなた無しにそれは同じではなかっただろう」という意味になります。ただ、そこで終わってしまってはタイトルに「?」を付けた意味がありませんので、もう少しこの表現が使われる場面を考えてみましょう。

 

実は、ここで大切なのが without you という部分です。これは「あなたがいなかったら」、すなわち if you were not with me/us ということを表します。上記でその前の wouldn't の部分を「仮定法」としたのも、このことが理由です。つまり、この文は「あなたがいなかったら、それは同じではなかっただろう」という意味になります。これは裏返すと「あなたがいたら、それは同じだったろう」ということも伝えます。

 

さて、it の内容が不明なのでわかりにくいですが、この文は大きく分けて次の2つの場面に用いられます。

 

①大切な誰かが去ってしまいそうな状況があったのに、結果的にそうならなくて嬉しい気持ちを表すとき

 →「あなたがいなかったら、それは同じではなかっただろう」と実際の状況を(予想された状況と比較して)表しています。

 

②大切な誰かが去ってしまって、その悲しい気持ちを表すとき

→「あなたがいたら、それは同じだったろう」と今の状況を(昔の状況と比較して)表しています。

 

実は、今回この表現を取り上げようと思ったきっかけは、①の例がたまたま見ていた筆者の大好きなドラマ『新スター・トレック』(Star Trek: The Next Generation)の第20話「さまよえるクリンゴン戦士」(Heart of Glory)で使われていたからです。クリンゴン人で唯一宇宙艦隊(Starfleet)の士官であるウォーフ(Warf)が、他艦のクリンゴン人船長から転属を打診されたときに、仲間の前で I am honored.(私は名誉に思います)と言うシーンがありました。それを見ていたエンタープライズ号(Enterprise NCC-1711-D)の艦長ピカードがすまし顔で次のように言います。

 

Warf: I was just being polite, sir.  I have no desire to leave the Enterpise.

Captain Picard: Good. The Bridge wouldn't be the same without you.

 

つまり、ウォーフが相手の意向を嬉しく思うことを表明しながら、「私はただ礼儀正しくしたかっただけです。私はエンタープライスを離れるつもりはありません」とそれを断ったことに対して、艦長は彼を見ないまますまし顔で「よろしい。君がいなかったら、ブリッジ(司令室、操縦室)はいつもと異なったもになってしまうだろう」と言いいます。これは、「君が本艦にとどまってくて嬉しい」という気持ちを伝えているのです。

 

一方、②の例はこの表現を調べているうちに件のプレスリーの曲(It Wouldn't Be the Same Without You)の歌詞として見つけました。その歌詞は次のようになっています。

 

I could wander the byway, rewander too

But it wouldn't be the same without you

Those familiar old places would just make me blue

'Cause it wouldn't be the same without you

 

こちらはおそらく失恋の曲でしょう。「(かつての)脇道を再び歩き回ろうと思ったが、なじみの古い場所さえも私の気持ちをブルーにさせるだろう。あなたがいたら、それは同じであろうに」と歌っています。つまり、昔よく行った場所もあなた(おそらく恋人)がいないことでちがって見えると言っているのです。ちなみに、歌詞の中で rewander という辞書にない単語がありますが、これは wander(歩き回る)に re- という接頭辞を付けて「再び歩き回る」という意味で使っているのでしょう。

 

いかがだったでしょうか。映画の台詞や歌の歌詞として使われている表現ですが、きっと上記以外にもあちこちで使われているでしょう。もっとも、これを自分で使うにはそれなりのシチュエーションが必要なので、なかなかそういう場面に出くわすことは難しいと思いますが…。

 

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