「しまった!」その2

「しまった!」シリーズ第2弾です。今回も筆者がアメリカの大学に留学していたときのことです。

 

前回の話にも登場した家主ビルは、東洋人、特に日本人が大好きでした。その理由は、彼がベトナム戦争に従軍していた当時に日本に住んでいたことがあり、その時の印象から日本人への信頼が厚かったからです。その信頼度たるや、「日本では家に鍵をかけなくても、目の前に大切な物を置きっぱなしにしても、けっして盗まれない」と言い切るほどでした(40年近く経った今はどうでしょうか…)。筆者が知り合いを通じて彼の家にお世話になることができたのも、彼の日本人に対する信頼度ゆえでした。

 

そんなビルの家に、ある日3人のベトナム人が引っ越してきました。彼らトライ(Tri)、ディエン(Dien)、トラン(Tran)はそれぞれ自分の家族とは離れ離れで暮らしている独身の若者でした。筆者は彼らと年齢が近く、同じアジア人であることもあって、お互いにすぐに打ち解けて仲良くなりました。

 

そんなある日の、筆者が旅行先のニューヨークから帰ってきたときのことです。お世話になっているビルや仲良くしてもらっている3人のベトナム人たちに何かお土産をあげようと、国連ビルの土産物屋でそれぞれの国のミニチュア国旗を買ってきました。夕食後にリビングてくつろいでいるときに、まずビルにアメリカの星条旗と日本の日の丸を日米友好のためにあげたところ、彼はとても喜んでくれました。

 

ところが、次にベトナムのミニチュア国旗を3本出して、トライ、ディエン、トランのそれぞれにあげようとしたところで大変なことが起こりました。

 

3人が血相を変えて怒り始めたのです。曰く、「なんでこんなものを持ってきたんだ!この旗が何を意味するのか知らないのか?僕たちはこの旗のせいで国を追われ、命からがらここに逃げて来たんだぞ!」

 

「しまった!」そう思ったときはもうあとの祭りでした。3人はベトナム戦争で北ベトナム側から迫害を受け、家族とともにアメリカに流れ着いた、いわゆるボートピープルだったのです。それをすっかり忘れて、彼らにとっては“敵”である共産国になった国の国旗を買ってきてしまったのです。彼らが怒ったのは当たり前でした。それに気づかずにいい気になってそんなお土産を買ってきた自分がなんと愚かだったか…。

 

幸いにも、3人の中では最も年上であったトランが「ノーリ(筆者のニックネーム)の親切な気持ちはわかったよ。国に残っている友だちにこれを送ってあげることにしよう」と言ってくれたことで、その場はなんとか収まりました。その後も彼らとの関係は良好なままでしたが、今でもあのときのことを思い出すと、恥ずかしい気持ちでいっぱいになります。(○/○/2021)

 

「つぶやき」メニューに戻る

「ホーム」に戻る