あるJRマンの教え

2回連続の「通勤ネタ」です。でも、前回とはだいぶ趣が違います…のつもりだったのですが、最終的には前回と同じような趣を感じさせる話かもしれません。

 

今から30年くらい前のことです。筆者は当時前任校に勤めており、西武池袋線、JR武蔵野線、同埼京線を使って通勤していました。埼京線は当時としては他線にはまだない最新設備がそろっており、自動改札もその1つでした。もちろん、当時は「ピッ!」ではなく「ガチャン!」の方です。

 

ある日、夜遅く勤務校の最寄り駅の改札を「ガチャン!」と通ったとき、斜め後方から「お疲れ様でした」という声が聞こえました。声の主は1カ所だけ残っていた非自動改札に立っていた駅員さんでした。おそらく50代半ばの、白髪の混じったスポーツ刈りのおじさんでした。その急な挨拶に驚いた私は、そのときはただ振り返ったでけでした。おじさんは特に明るくそれを言ったわけではなかったのですが、かと言って機械的に言っているのとはちがう、落ち着いた口調で改札を通る一人一人に声をかけていました。

 

その翌日の夜もそのおじさんは改札を通る人みんなに「お疲れ様でした」と言っていました。筆者もそのときは「さようなら」と言いました。そのおじさんは、朝改札に立っているときは「おはようございます」と改札を通る人みんなに声をかけていました。そうすると面白いもので、そのおじさんがいるときは、筆者は自動改札を通らずにそのおじさんがいる改札を通って、「おはようございます」「さようなら」と挨拶をするようになりました。なんだか、そのおじさんに会えるのが楽しみになっていたのです。

 

ところが、しばらくすると、そう思っていたのは筆者だけではないことがわかりました。なんと、多くの人が自動改札を通らずにそのおじさんのいる非自動改札を通っているのです。そして、そのほとんどの人がおじさんとことばを交わしています。近くにある国立の小学校に通う児童たちも笑顔で「おはようございま~す!」と改札を通っていきます。小学生であれば、「ガチャン!」が面白い自動改札の方を通りそうなのに、あえておじさんのいる改札を通っていくのです。おじさんはそのような子供たちに対しても、たんたんとした口調であいさつをしているだけなのですが、なぜか子供たちは笑顔で元気にあいさつを返していました。

 

この時、筆者は「あいさつ」の持つ力を学びました。教員という仕事をしていると、先輩教員から児童・生徒にあいさつの指導をすることの大切さを学びますが、なぜそれが大切なのかということは教えてもらった覚えがなかったので、その答えをこのおじさんに教えてもらったように思いました。

 

以来、筆者は毎朝生徒と顔を合わせると、「おはよう!」と元気に挨拶をするようになりました。それは、お互いに元気に挨拶をすることで、気持ちよくその日を送れるような気になることをそのJRマンから学んだからでした。その習慣は今でも変わりません。(3/7/2020)

 

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