イントネーションを意識して発音する

「英語の発音は練習次第で上手になる!」シリーズの第7回は「イントネーション」です。イントネーションとは、文全体に及ぶピッチ(pitch=声の高さ)の変動のことです。イントネーションには、話者の心情態度(賛成・反対、好意・敵意、恐怖、驚嘆、皮肉、関心・無関心、自信の有無など)を表す心情態度的機能、句や節の分かれ目や平叙文と疑問文の違いを表す文法的機能、話題の流れやまとまり、転換を合図して情報の進級を表す談話的機能があります。これらは伝えたい内容を正確に表すための発信者による「演出」とも言えます。

 

0. イントロダクション

英語学習者であればすでに気づいていると思いますが、イントネーションは日本語と英語で共通している部分が多いという特徴があります。例えば、「はい/いいえ」で答える疑問文は文末を上げ調子に発音することなどです。 また、イントネーションはこれまで扱ってきた他の項目と比べて比較的簡単な印象がありますから、「文末の上げ下げだけをしっかりすればいい」くらいに思っているかもしれません。

 

そこで、本編に入る前に1つ質問があります。みなさんは自己紹介で "My name is ~."(本来は "I am ~." の方が一般的であるということは置いておいて)を使うとき、どのように言いますか。例えば、"My name is Sato Ken." であればどうでしょう。まず言ってみてください。

 

My name is Sato Ken.

 

筆者の長年の経験では、中1生徒の大部分及びテレビのバラエティー番組などで英語で自己紹介するタレントさんたちのほとんどが次のように言います。なお、「↘」はその直後の音が最もピッチ(音の高低)が高くてその後下がっていくという印で、テストのイントネーション問題でよく見かけるものとは付いている場所が異なるので注意してください。また、太字はストレス(強勢)の強い部分です。

 

My name is Sato Ken. 

 

みなさんもそうではないですか。しかし、これは英語のイントネーションとしては不自然です。正しくは次のように言います。

  

My name is Sato Ken.

 

それはなぜかと言うと、「私の名前」という情報では「私の」の方が重要だからです。さらに、この文の最も重要な情報は「サトウ・ケン」という名前そのもので、この部分を小さく速くゴニョゴニョと言う生徒のなんと多いことか。この部分は2つの語のそれぞれにピッチを高くしてストレスをしっかり置いてゆっくり言うべきです。

 

つまり、一見して簡単そうに思われる英語のイントネーションも、伝えたい内容を正確に表すためにはその基本的なルールを学んでおく必要があるというわけです。

 

1. イントネーションの構造

発話がある長さ以上になると、ピッチの変動によってそれがいつくかの部分に区切られます。その1つ1つを「音調群」といいます。早口でまくしたてるような会話ではほとんどわかりませんが、演説などで相手に自分の伝えたいことを正確に表現するために、意味のまとまりごとに区切って少しポーズを入れながら話しているのを聞いたことがあるでしょう。その区切られた部分が音調群になります。

 

さらに、1つの音調群の中にもストレスの強さやピッチの高さにちがいが出る部分があります。例えば、"I've been reading a book on the phonetics." という文は次のように発音します

 

I've been reading a book on phoNETics. ※太字はストレスを置く部分

                  ●

      ●  ・   

・        ・   ●

  ・        ・  ・       ・ 

※・と●の上下位置はピッチの高さを表す。

 

上記で表したストレスとピッチをきちんと再現すると、英語らしい発音になります。

 

2. 各音調の用法

ここからは各音調の基本的なルールを見ていきましょう。「」と「」に注意して実際に言ってみてください。

 

(1) 下降調

文末でもっとも頻繁に現れる音調です。下降調は、話者がその情報に対して迷いや遠慮がなく自信を持っていることを表します。

 

① 陳述文

Mr. Brown is my ENglish teacher.

 

② 疑問詞で始まる疑問文

What's your NAME?

 

③ 命令文

Listen CAREfully.

 

④ 感嘆文

What a MESS!

 

(2) 上昇調

上昇調は文の途中や文末に頻繁に現れる音調です。話者の伝えたい内容が未完成であったり、情報を完結するために相手に何らかの反応を求めたり、不確実(驚きや反発、迷い、遠慮)を表したりするときに用いられます。

 

① 文の途中で

I walked into the STUdio, but no one was THERE.

ONE, TWO, THREE, FOUR, FIVE.

 

② Yes/No 疑問文

Is that TRUE?

 

③ 平叙文の形をした質問

You told him to COME

 

④ 相手のことばをそのまま問い返すとき

ToDAY?(今日だって?)

 

⑤ 依頼や勧誘

May I have your NAME?

 

⑥ 挨拶

HelLO.

 

⑦ 呼びかけ

WILliam, are you THERE?

 

⑧ 断定的な口調を和らげたいとき

He couldn't HELP it.

 

(3) 下降上昇調

下降上昇調は英語独特の音調です。下降調の断定と上昇調の不確実や未完成が合わさったものです。

 

① 文の途中で

In a small town like THIS, rumors spread QUICKly.

 

② 陳述文を控えめに言うとき

I hope you'll LIKE it.

 

③ 命令文や警告を和らげる

I told you not to SMOKE in the room.

 

④ 言外の意味を伝える

I can go toMORrow.(明日なら行けるのだが…=他の日はだめ)

 

⑤ 部分否定

I can't just eat ANything.(何でも食べられるというわけではない)

※ I can't eat ANything.(何も食べられない)

 

3. 注意すべきイントネーション

イントネーションは文によって固定されているわけではなく、伝えたい内容やニュアンスのちがいによって変わる場合があります。

  

(1) 文の内容の核となる語が異なる場合の音調

イントネーションの核は、普通は音調群の最後の内容語の第1強勢のある音節にあります。

 

Mary bought the BOOK.

              ●

  ● ・   ●

                         ・

 

つまり、上の文では「本」が重要な情報ということになります。ところが、重要な情報が他の部分にある場合はイントネーションがことなります。

 

①「メアリー」が重要な情報ととき(誰が買ったかを強調したいとき)

MARbought the book.

    ● 

   ・  ●  ・     ●

 

②「買った」が重要な情報のとき(買ったということを強調したいとき)

MarBOUGHT the book.

     ● 

   ●・      ・ ●

 

(2) 付加疑問文の音調

おそらく中学校では「付加疑問文は平叙文の形だが最後は上降調にする」と習っているでしょう。しかし、付加疑問文には同じ形でもニュアンスが2種類あり、どちらで言うかでそれが変わります。

 

① There weren't many books on the SHELF, WERE there?

② There weren't many books on the SHELFWERE there?

 

いずれも最後が「ありましたよね」ですが、①は相手に質問しているのに対して、②は相手に念を押しています。①のように疑問に答えてほしければ上昇調になりますが、②のように断定的に言う場合は下降調になるというわけです。

 

(3) 複数の語を列挙する場合の音調

こちらもおそらく中学校で「AとBなら "↗A↘B"」、「AとBとCなら "↗A↗B↘C"」と習ったにちがいありません。しかし、必ずしもそうならない場合があります。

 

① Would you like TEA, COFfee or GREEN tea?

② Would you like TEACOFfee or GREEN tea?

 

①は「3つのうちのどれがいいですか?」という場合で、これが一般的な複数を列挙する場合のイントネーションです。一方、②は「何か飲み物はいかがですか?」と聞いている場合で、いわば普通の Yes/No 疑問文と同じなので、最後の語も上昇調になるというわけです。

 

【コラム】長年の疑問の解決-なぜ疑問詞で始まる疑問文は文末が下降調なのか?-

初めて英語を習ったときから、「Yes/No 疑問文の文末は上昇調、疑問詞で始まる疑問文は下降調」ということはご存知ですね。おそらく多くの人が筆記テストで2つの疑問文の後ろに「↗」や「↘」の記号を入れる問題を経験したことがあるでしょう。でも、なぜ同じ疑問文なのに疑問詞で始まる疑問文は下降調なのでしょうか。おそらく多くの人が「そうだと教えたもらったから…」「そんなことは考えたこともなかった」と言うでしょう。しかし、これも音声学的には理由をきちんと説明できるのです。

 

2.(1)では下昇調のときは「迷いや遠慮がなく自信を持っている」ときで、(2)では上昇調のときは「不確実(驚きや反発、迷い、遠慮)を表したりする」ときであるとしました。実は、このちがいが疑問詞で始まる疑問文の文末を下降調にする理由です。

 

それは、疑問詞によって特定される情報を相手に要求することがこの疑問文の目的であり、迷いの気持ちから相手にYesかNoかを答えてもらいたいうわけではないからです。例えば、Where do you live? は疑問文の形をしていますが、その実は Please tell me where you live. と相手に情報提供を要求している文なのです。

 

どうでしたか? 長年の疑問が解決したにちがいありません。筆者も学生に「英語音声学」を教えるようになって知りました(笑)。

 

<まとめ>

一見簡単そうに思われるイントネーションも、改めて見直してみると新しいことがわかったり、これまで信じていたことがくつがえされたりしたのではないかと思います。そして何より、イントネーションによって自分が伝えたい内容が大きく変わる-そしてそれは同時に相手の伝えたい内容を正確に把握する-ことにつながるということがわかったと思います。ぜひともイントネーションを大切にして英語を話すようにしてみたください。