Push the envelope.「その封筒を押せ」?

今回の表現は日常会話ではあまり使われないものなので、映画やドラマで頻繁に耳にするものではありませんが、それでもこれまでに何度か聞いたことがあり、またとても面白い表現なので取り上げてみました。直訳するとタイトルのように「その封筒を押す」ですが、いったいどういうことなのでしょうか。

 

辞書で envelope を引いてみると、「封筒」という意味の他に「気嚢(きのう)」という意味も出てきます。気嚢とは、鳥類の肺に付属する薄膜の袋で、中に空気を蓄えて浮きやすくする機能のあるものです。そこから、気球や飛行船の浮揚のためのガスを入れる袋のことも気嚢と呼ぶようになりました。そして、飛行機界においても envelope は飛行機の性能を表すことば(flight envelope)として使われるようになったそうです。

 

その envelope を push するとは、その飛行機が持っている性能以上のことをさせるという意味になり、「限界を超える」というような意味で使われるようになりました。つまり、飛行機などが安全運行できる領域を超えて、さらなる性能を引き出そうとする行為を指すようになったというわけです。

 

なお、push the outside of the envelope ということもあり、この場合も「気嚢の外側を押す」ということから、より一層の限界に挑戦するという意味になるようです。

 

"push the envelope" という表現に関して、英会話教室ベルリッツ(Berlitz) のホームページでは次のように説明されています。

 

It's always interesting to learn how idioms originate. Today's apparently comes from the field of aircraft design and testing, where the “envelope” is an airplane's performance limits. It's a sort of outer boundary that test pilots sometimes risk their lives trying to stretch - or “push” - further!(太字は筆者)

 

なるほど、テスト・パイロットがスピードの限界に挑戦する表現として生まれたというわけです。どうりで、筆者が初めてこの表現を耳にしたのが、前回の「Back to square one」でも紹介した、テスト・パイロットや宇宙飛行士を描いた『ライト・スタッフ』(The Right Stuff)という映画だったわけです。筆者が覚えているかぎりでは、少なくとも3カ所この表現が出ていたと思うのですが、そのうちの2カ所を紹介します。

 

① 音速の壁を破ったチャック・イエーガーに対して、妻のグレニスが愚痴を言うシーン

 

Glennis: (テストパイロットに対する政府の対応について散々愚痴を言った後で)But I guess I liked it. I guess I liked the kind of man who could push the outside of the envelope. Flyboy.

 

② 宇宙飛行士を称えるパーティーでマーキュリー計画最後の宇宙飛行士ゴードン・クーパーが記者に Who was the best pilot you ever saw? と尋ねられて答えるシーン

 

Gordon: Who was the best pilot I ever saw?  Well, I tell you. ... And some of them are...they're still out there somewhere, doing what they always do. Going up each day in a hurtling piece of machinery...putting their hides out on the line...hanging it out over the edge...pushing back the outside of that envelope and hauling it back in.

 

上記の2つのシーンでは、いずれも push the outside of the envelope となっていますが、少なくとももう1カ所は pus the envelope と言っていたと思います。なお、この表現をネットで検索してみると、記事の多くがこの表現は『ライト・スタッフ』で広く知られるようになったとしています。

 

ちょっと特殊な専門用語的なもので、私たちが日常生活で使うような表現ではありませんが、今後も飛行機ものや宇宙船ものなどの映画やドラマなどには出てくる可能性がありますので、注意して聞いてみてください。

    

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