バイクの思い出⑥:ハーレーダビッドソン FXST ソフテイル

いよいよ“真打ち”の登場です。6台目のバイク、そして筆者にとって(今の時点で)最後のモデルとなったのは、最初で最後の外国製モデルである、ハーレーダビットソンFXST、通称「ソフテイル」(Softail)の1987年モデルでした。

 

【モデル概要】

このモデルは、ハーレーのバイクの中で長い間「ビッグツイン」と言われていた80キュービックインチ(=1,340cc)のエンジンが1984年に「エボリューション」タイプにモデルチェンジしたときに新しく発売されたものです。

  

本モデルの最大の特徴は、一般的なリア・サスペンションが本体と一体のフレーム上部と車軸の間を2本のコイルとダンパーでつないでショックを吸収するのに対して、このモデルのそれは独立したリア・フレームの上下の動きをメイン・フレームの下に置かれたダンパーで吸収するというものでした。最近のバイクでは当たり前になってきたリア・サスペンションが見えないという機構とデザインを1980年代半ばには採用していたのです。なお、名前の「ソフテイル」(Softail)は、リジット・フレームに見えてダンパーが効く柔らかい乗り心地を表す“soft tail” から来ているそうです。 

 

他には、ツアラー系では採用されていた、振動を軽減するためのダンパーはあえて採用せずにわざと振動をダイレクトにライダーに感じさせるようにしたり、フットレストを前に移動してプルバックハンドルと大径21インチ・タイヤで「イージーライダー」のような乗車姿勢がとれるようにしたり、18.9リットルの大容量ガソリン・タンクを装備してロング・ツーリングに対応できるようにしたりと、いわゆる「アメリカン・タイプ」の新たなお手本を示しているかのようなモデルでした。

 

このモデルには、リアのディスク・ホイールやクローム・メッキパーツ満載の「カスタム」(上の写真のモデル)や、よりクラシックな雰囲気を高めたパーツで構成された「ヘリテージ」、フロント・フォークを2☓2の可動式にした「スプリンガー」などの派生モデルもありました。筆者が所有していたモデルは、それらの追加装備や特別装備がないスタンダード・モデルでした。

 

長く独自のクラシック路線を歩んできたハーレーも2000年代に入ると日本やヨーロッパのモデルのような最新メカを搭載したモデルへと進化しましたが、「ソフテイル」は2023年現在でもラインナップの1つとして残されています。

 

【購入エピソード】

実は、当初はハーレーではなくBMWを手に入れるつもりでした。それがなぜハーレーになってしまったのかをお話ししましょう。

 

CB750F インテグラにしばらく乗っていたところ、もっと強力なツアラーがほしくなりました。そうすると、第一の候補はBMWのK100(並列4気筒、1.000cc)かR100(水平対向2気筒、1.000cc)でした。そこで、地元にあるBMWの代理店に試乗に行きました。すると、どちらのモデルも大変乗りやすく、とても気に入りました。

 

しかし、この2モデルには、大きな“難点”(=すごさ)がありました。それは、どんなにスピードを出しても怖くなかったことです。お店の人に「思いっ切り飛ばして来てください」と言われたことをいいことに、一般道で口には出せないくらいのスピードを出して車の間を縫うように走ったのに、全く恐怖感を覚えなかったのです。「これは命がいくつあっても足りない…」そう思った私の目に、チョッパースタイルのハーレーが目に入りました。

 

「これならゆっくり走ってもサマ(様)になるな…。」そう思った途端にそのハーレーに目が釘付けになりました。そのハーレーこそ、今回紹介する「ソフテイル」(1987年モデル)でした。しかも、購入後1ヶ月で1.000kmしか走っていないピカピカの中古が、新車価格より30万円も安い148万円で売られていたのです。その時はお金を持っていなかったので、購入しませんでしたが、翌日には電話で購入予約を入れました。

 

購入時点で純正オプションの太いソフトグリップとメガホンマフラーが付いていましたが、さらに納車時に純正オプションのパッセンジャーレスト(正確な名称は忘れました)とそこに付ける鷲のマークのエンブレムを付けてもらいました。そして、少し経ってから純正のタコメーターも付けました。

 

【ツーリング・エピソード】

このモデルでもあちこちに行きました。北海道、東北、中部、東海、近畿、中国、四国、…。行く先々で多くの人と出会い、楽しい思い出をいっぱい作りました。

 

燃費はツーリングなら25〜28km/l は確実で、定地燃費21km/l、高速燃費16km/l というカタログ値を大幅に上回るもので、最初は信じられませんでした。18.9リットルもある大型タンクのおかげもあって、日帰りなら途中給油をする必要はありませんでした。なお、元々はハイオク・ガソリン仕様でしたが、無鉛ガソリンでも十分に走ることがわかったので、途中からは環境保護と省燃費のために無鉛に変えました。ただし、しばらくしてからハイオクを入れたら、ノッキングを起こして走れなくなってしまいました。

 

また、当時はまだ「外車は壊れやすい」と言われていた時期でしたが、ハーレーは当時多くの重要な部品が日本製(フロントフォークはShowa、電装系は日立、ライトはKoito、など)だったので、ツーリング中も故障知らずでした。一度だけ、ちょい乗り中にキャブレターとエンジンの間にあるゴムのパッキンが破れるというトラブルがありましたが、修理をした人によると、「組立時の雑な作業のせいで、日本製のバイクならありえないこと」だそうでした。結局、手放すまでそれ以外の故障はありませんでした。

 

【長所・短所】

長所は、なんと言っても、V型2気筒のビッグエンジンが生み出す強大なトルクと、身体中に響く力強い音と振動でした。特に、ほとんど消音効果のないメガホンマフラー(純正オプション。ただし車検は通らない)から吹き出す、近所迷惑な騒音とも言える音と振動には、加速をするたびにしびれたものです。そして、どんなに遅く走っていても様(さま)になるので(何度か原付に追い越されました…)、乗っていて優越感を味わえました。

 

また、先述したように、燃費の良さも1,340CCも排気量があるモデルとは思えないものでした。もちろん、普通の道ではほとんどアクセルを開ける必要はなく、トップ・ギアの5速では60km/hで1.500回転という、小排気量車のアイドリング並みの回転数で済んでしまうという強大なトルクのお陰であったのは言うまでもありません。

 

短所は、アクセルが重いこととクラッチレバーが重いことで、長距離ツーリングではいつも肩がコリコリになり、手首や指も痛くなって、夕方頃にはヘトヘトになったことでしょうか。アクセルについては、アクセルを握らなくても手のひらで操作できる市販のパーツを購入して対応し、クラッチはいつも左の手首の内側で押すようにして切ってギアチェンジをしていました。おそらく、最新のモデルではそのようなことは改善されていると思いますが…。

 

また、乗車姿勢は一見すると楽そうですが、ハンドルやステップが手足の長いアメリカ人用に設定されているので、手足の短い筆者は両腕・両脚が伸びっきりでした。それから、車重が乾燥で280㎏もあるので(ガソリン満タンで約300㎏!)、取り回しが重く、押して歩くときは大変でした。一度だけ自宅前で立ちゴケしてしまったことがあり、その時は家族に助けてもらいました。

 

【お別れ】

実は、結婚して子供ができてから、このバイクに乗る機会がめっきり減りました。そして、二人目の子供ができてからはまったく乗らなくなり、車検も切れて、ほとんど廃車同然の状態で庭の軒先に置かれていました。そんなときに、家を新築する話が持ち上がりました。妻からは、「新しい家にはバイク置き場は作らないからね」と宣言され、いよいよこのモデルを手放すことになりました。

 

ただ、どうやって手放したらいいのか。購入後17年も経ったバイクでもハーレーなら多少の価値はありそうでしたが、一方でサビもひどく動きもしない状態では値段がつくかどうか…。そこで、インターネットで買い取り業者を探し、そのうちの2社に同じ日の同じ時間に来てもらって、目の前でオークションをしてもらうことにしました。

 

さあ、開始値はいくらにするか?「10万円は高すぎるかな…」などと妻と言いながらその値段を提示すると、こちらの予想を覆す展開になったのです。

 

なんと、両社の買取人がどんどん値段を吊り上げて行きました。途中で片方が上司に電話で相談したり、二人がケンカを始めたりしてドキドキしましたが、結果的には一人で判断して値段を上げていた若い方の買取人が落札しました。落札価格は…?それは言えませんが、新居のすべての部屋のエアコン代が賄えるほどの金額でした。落札した買取人曰く、「ハーレーは腐ってもハーレーです。この値段で買い取っても、絶対にそれ以上の値段で売れます」だそうでした。

 

こうして、17年間所有した最後のバイクともお別れし、ついにバイク人生から「足を洗う」ことになりました。(6/10/2023)

 

帯広(北海道)で

知床横断道路(北海道)で

自宅でシートをはずして洗車中


那智勝浦港(和歌山)で

鳴門大橋(徳島)で

旧余目鉄橋(兵庫)で


 

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