ピカードの笛


まずは上の2つの写真を見てください。左(スマホでは上)の写真は世界に1つしかない、ある笛の“本物”で、右(同下)の写真はそのレプリカです。実は、この笛は筆者が大好きな『新スター・トレック』(Star Trek: The Next Generation)というドラマのある1話の中で印象的に使われた縦笛です。通称を「ピカードの笛」(Picard's flute)としていますが、ファンの間では物語が描かれる街の名前レシック(Ressik)を取って "the Ressikan flute" と呼ばれていますが、主人公のピカード艦長がカターン星で名乗った名前のケイミン(Keimin)を取って "Keimin's flute" などとも呼ばれているものです。

 

『新スター・トレック』は1987年から1994年にかけて7シーズン計176話が放送された、アメリカのテレビ・ドラマです。1965年に始まった初代の『宇宙大作戦』(Star Trek)から断続的に55年も続く『スター・トレック』の中でもファンの間で最も評価の高いドラマです(詳しくは「19. 私の好きなドラマの話」参照)。今回の笛は、その『新スター・トレック』第5シーズンの第25話(通算125話)である『超時空惑星カターン』(The Inner Light)というエピソードの中で使われた小道具です。

 

このエピソードは全部で750話以上ある『スター・トレック』シリーズの中で、「私の最も好きなスター・トレックの話(my favorite Star Trek episode)」で世界中の人々から常にベスト3の1つに選ばれる話です(ちなみに、筆者はこのエピソードがナンバー1だと思っています)。また、『スター・トレック』の中では、優れたSF作品に贈られるヒューゴー賞を唯一受賞した“名作”とされています。したがって、このエピソードで使われただけの単なる小道具でしかなかったこの笛は、ファンの間では特別な存在となっています。なお、同話の内容はいくら言葉で説明してもその良さが伝わりそうもないので省略します。

 

さて、今から15年くらい前にこの小道具の“本物”(上左の写真)が高級品のオークションで有名なクリスティー(Christie's Auction)で競売に掛けられました。当初の予定落札価格は800~1,200ドル(現在のレートで約9~13万円)程度とされていましたが、実際の落札価格は48,000ドル(同約520万円)という高値でした。一ドラマの、たった1回しか使われなかった(実際には後のエピソードでも一度だけピアノとの二重奏で使われたことがある)単なる小道具にそれだけの値段がついたのです。それだけ世界中のスター・トレック・ファンが欲しいと思っているものなのでしょう。

 

実は筆者もその一人で、これだけファンの間では有名なものなので、“本物”は手に入れられなくても、レプリカをどこかの会社が出しているかもしれないと思って探していました。そうしたところ、あるアメリカ人が手作りでこれを製作して販売していることを発見しました(それが上右の写真のものです)。飛び上がって喜んだのは言うまでもありません。ところが、そのサイトの記述によると、アメリカ国内専用の販売であって、海外へは送らないとありました。う~ん、残念…。

 

しかし、ここで諦めないのが筆者です。思い切って製作者にメールを送り、いかに自分が『スター・トレック』のファンで、このエピソードをナンバー1だと思っているかを切々と訴えてみました。そうしたところ、なんと特別に日本に送ってくれるという返事がきました。品物の値段は69ドル(当時は約7,900円)、送料が25ドル(同約2,850円)の計94ドル(約10,750円)。この値段でレプリカが手に入るとわかって即決して申し込みました。一度に1本しか注文を取らないので、筆者が申し込むと一時的に Sold out(売り切れ)になりました。

 

ただし、1本1本手作りなので、製作には約1ヶ月かかるということ。そして待つこと1ヶ月余り、無事にその笛が手元に届きました! 上右の写真にもあるとおり箱まで本物を意識した化粧箱で、中を開けると小さなリコーダーほどの笛が出てきました。簡易製作なので本物そっくりとはいきませんが、十分に雰囲気は出ています。しかも、吹いてみると"本物"に近い音色が出ます。もうこれは筆者の宝物です!

 

と、お宝自慢の話であったのですが、本コーナーで紹介するにはそれなりの理由があります。先述のとおり、製作者と交渉して手に入れたわけですが、それは筆者が英語で自分の思いを伝えることができたからです。実は他にもアメリカから直接取り寄せたものがあるのですが、その時も自分の英語力(と言ってもネイティブのようにはいきませんが)が役立ちました。そういう意味でも英語を使えるようになる価値はあるということをお伝えしたかったのです。

 

ちなみに、件のエピソードで件の笛で演奏される曲は、スタートレックの「The Best of Star Trek- 30th Anniversary Special」というCDにオーケストラ・バージョンとして収められており、YouTubeでもその演奏をCD版や実際のオーケストラの演奏(※指揮者が新スター・トレックのユニフォーム風ジャケットを着ています)として聴く(見る)ことができます。笛は"本物"を使っているわけではありませんが、代替品の笛(おそらくフルート)の音はかなり本物に近いものが再現されています。下記で聴けますので、聴いてみてください。そして、その曲の雰囲気を気に入られたら、ぜひDVD/Blue Ray やストリーミングで件のエピソードをご覧になってみてください。きっと見終わったときに心がじ~んと温かくなると思います。(1/23/2021)

 

The Best of Star Trek- 30th Anniversary Special CD

Orchestra Concert


 

<追加>

この“本物”が使われているドラマの雰囲気を少しでもわかっていただくために、YouTube上に上がっているドラマの一場面にリンクを貼っておきます。ただ、それらのシーンを見てでさえも、なぜ世界中の人々がこの作品を愛し、そららの場面に感動するのかということはわからないかもしれません。ぜひ、件のドラマをご覧になってみてください。


 

 [11/5/2022追記]

上記の“本物”が2021年6月に再びオークションにかけられ、190,000ドル(28,500,000円, $1=150円換算)で落札されました!

 

「つぶやき」メニューに戻る

「ホーム」に戻る