Never better.「けっしてよりよくない」?

今回の表現も映画やドラマを見ていると度々耳にします。たいていは、誰かにそのときの気分を聞かれて答えるようなシーンで発せられます。では、詳しく見ていきましょう。

 

まず、never は「けっして~ない」や「一度も~ない」という否定の意味を伴う副詞です。一方、better は「よりよい」とか「よりよく」という、何かと比較してよりよいことを表す形容詞または副詞です。better は good(形容詞) と well(副詞) という2つの単語の比較級であることはご存じでしょう。

 

この2つをそのまま連続で読むと、タイトルのように「けっしてよりよくない」となり、悪い意味を表すような感じがします。しかし、実際にはその逆で、「最高に良い」、つまり best の意味で使われます。それは、省略されている部分を次のように補って完全な文にしてみるとわかります。

 

I have never been better (than I am now).

 

上記の文は、「私は(私が今そうであるより)よかったことは一度もない」という意味ですね。つまり、「今が一番よい」ということを表します。あえて never という否定の意味のある語を使うことで、逆に肯定の意味を強めようという意図で発せられる表現です。 

 

映画「ハリー・ポッター」シリーズの第1作『ハリー・ポッターと賢者の石』(Harry Potter and the Philosopher's Stone)でもこの表現を耳にできます。具体的には、映画の最後の方で、ヴォルデモートとの戦いで受けた傷から復帰したハリーが、友人のロン、ハーマイオニーと再会するシーンで聞くことができます。

 

Harry: All right there, Ron?(やあ、元気かい、ロン?)

Ron: All right.  You?(元気だよ。君は?)

Harry: All right.  Hermione?(元気だよ。ハーマイオニーは?)

Hermione: Never better.(最高よ)

 

ハーマイオニーの喜びにあふれた表情と明るい口調、字幕に「最高よ」と出ていることから、この表現がいかに気分がよいときに発せられるものかがわかります。なお、ハリーの最初の台詞 "All right there?" とは、"Are you all right there?" というイギリス人がよく使う挨拶の表現の省略形で、「調子はどう?」という意味です。there が使われるところが面白いですが、他にも "Hello, there!"(やあ、元気!)のように最初に人に声をかけるときに用いられているのをよく耳にします。

 

今回の表現は少し気取った感じがするものですが、誰かに調子を聞かれて本当に気分がよいことを伝えたければ、使ってみると面白いでしょう。ただし、暗い顔や抑揚のない口調でこの表現を言うと、本来の意味とは逆の意味(調子が悪い、疲れている、など)で言っていると受け取られる可能性がありますから、使うときは明るく元気に言うようにしましょう。

 

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